ONthe Story ~異色のアーティストカップルが立ち上げた「ミリオンハートプロジェクト」とは

2019年12月22日、大阪梅田のコワーキングスペース「ONthe UMEDA」にて、「ONthe Story」が開催されました。ONthe Storyとは、独自の生き方やキャリアを歩んでいる方をゲストとして招き、参加者が「明日につながる一歩を考える」場を提供するトークイベントです。

今回のゲストは、アートユニット「ハルキハウス」を運営する、画家の橘ナオキさんと額装家の多喜博子さん。両名とも会社勤めからアーティストに転身した、異色のカップルです。感謝の気持ちや平和への祈りを込めたハートの絵を販売し、売上金を全額寄付する「ミリオンハートプロジェクト」を立ち上げ、近年注目を集めています。

競争が激しい芸術の世界で、アーティストとして活躍できる原動力はどこにあるのか。これまでの経歴や「ミリオンハートプロジェクト」について語っていただきました。

 
画家の橘ナオキさん(右)と額装家の多喜博子さん(左)

絵画が引き寄せた縁 生き方を模索する2人がアーティストカップルになったわけ

トークイベント前半で語られたのは、橘さんと多喜さんの軌跡。両名とも、初めからアーティストを目指してはいませんでした。

橘さん

アパレル企業の生産管理として働き、日本と中国を行き来するハードワークを長年続けていました。転機が訪れたのは、生まれたばかりの息子が障害を抱えていると判明した時です。「死ぬまで一緒にいてあげたい」と思い、会社を2011年に退職しました。その後、息子が寝ている時や公園で遊んでいる時を利用して、iPadで絵を描き始めたのが画家人生のスタートです。スマホケースやTシャツに描いた絵が採用されるようになった頃、知り合い経由で多喜さんと知り合いました。

多喜さん

外資系企業に勤めていましたが、2011年の東日本大震災をきっかけに、「自分がしたいことは何か」を真剣に考えるようになりました。会社を退職し、働く女性を支援する地域コミュニティを立ち上げましたが、うまくいかず撤退。その後は、元受刑者が働きながら学ぶ更正支援施設に携わりました。橘さんの絵は以前から「惹かれる絵だな」と感じており、会ってみることに。実際話してみると、とても面白い方でしたね。

お互い意気投合し、パートナーとなった2人は、2016年に共同でアートギャラリー「ハルキハウス」を設立。橘さんはバーのVIPルームやホテルの部屋に絵画を提供し、個展を開催して成功を収めます。

橘さんが、トークイベント中即興で描いていた絵画

多喜さん

最初は橘さんが絵を描くのを見ていましたが、次第に「ヒマだな、何かやりたいな」と感じるように。色々模索して、「額縁だったら出来るんじゃないかな」と考え、とある先生から額装の技術を学びました。最初は橘さんの絵画を額装していましたが、次第に他のアーティストの作品も担当するようになり、額装家として自信が付きましたね。

額装とは、絵に額縁をセットし、1つの芸術作品として完成させる作業です。色合いや空間の使い方など、高い芸術センスが求められます。優れた額装家による額縁は、絵画の価値や完成度を高める役割を担うのです。

額装が、絵画の美しさを際立たせる

このようにして、生き方を模索していた2人は、絵を通じて知り合い、アーティストカップルとしてデビューしました。「自分らしい生き方を歩みたい」という思いが、両名の原動力です。

ハートで世界を変える 「ミリオンハートプロジェクト」誕生秘話

トークイベント後半では、司会と参加者が聞きたいことを質問するパネルディスカッションを開催。ハートの絵を利用して行われるチャリティープロジェクト「ミリオンハートプロジェクトに関しても、質問が行われました。

-youtubeやフェイスブックなど、インターネット上で積極的に情報発信するのはなぜですか?

橘さん

自分という人間そのものをコンテンツにし、テレビ番組のような感覚で発信しています。やるからには真剣で、モノを売る感覚ですね。

情報発信を行うのは、アーティストとしてイベントに呼ばれたり、作品を買ってもらったりするためには、ストーリーが重要だからです。たとえば、自分の肖像画を描いてもらいたい人がいて、僕に頼んでくるとします。でも、もしかしたらほかのアーティストも描けるかもしれないし、写真で十分な場合もある。

そこで重要となってくるのが、ストーリーです。「インターネットであなたを見て面白いと感じたから」という理由があれば、僕が肖像画を描く意味が発生します。だから、僕自身の人間性は、常に発信するようにしているのです。

-生活のリズムはどのようになっていますか?

多喜さん

今は完全に自由です。最初は1日のリズムを整えるのに苦労しました。

会社勤めの場合、会社に行ったらなんとかなるんですよね。とりあえず指示に従えばいいし、考えずに済む。でも一度会社を辞めれば、多すぎる自分の時間をどう使うのか考える必要があるのです。現在はクリエイティブな仕事に時間を使いながら、体調と精神を万全に保てるよう研究を重ねています。最近は、ちょっと昼寝をするようになりました。

-「ミリオンハートプロジェクト」について、詳しく教えてください。

橘さん

最初はプロジェクトではなく、お世話になった人にハートの絵を描いて贈ることをやっていました。70枚描いた後、「ハートで今後なにかする?」を多喜さんと話し合って、「世界平和のために使ってみたい」と考えたのがきっかけです。

ちょうどそのとき西日本豪雨災害があって、「ハートの絵を売り、収益を義捐金として寄付する」というアイディアを思いつきました。ためしに発表してみたところ大きな反響があり、フェイスブックから数十人の申し込みがあったので、本格的にプロジェクトが始動したのです。結果、ハートを1,000枚描いて、250枚を販売。売り上げは、国境なき医師団や骨髄バンクなどに寄付しました。

最近は僕たちだけでなく、「ミリオンハートプロジェクト」に賛同してハートの絵を描いてくれる方をフェイスブックで募集し、ワークショップを開催しました。「世界をハートで満たす」という目的の元、集ったメンバーは30人ほどです。僕があれこれ指示を出すのではなく、それぞれ自分が美しいと考えるハートを描いてもらっています。

「ミリオンハートプロジェクト」によって描かれたハートの絵

-プロジェクトの今後の目標は何ですか?

多喜さん

たくさんのハートを書きたいという願いを込めてミリオン(百万)と名付けましたが、このペースならハートを本当に百万枚描くことも夢ではないかも…。ミリオンハートクラブメンバーは0期という位置づけで、それぞれのメンバーがはがきにハートの絵を描く作業を行っています。今度は、もっと色々な活動を行っていきたいです。

-お2人にとって、ハートとはなんですか?

橘さん

「人にある良心をあふれさせる形」だと考えています。ハートを使って、「人の好きなものは地続きで、実はそんな変わらないんだよ」というメッセージを発信していきたいです。今の世界は、多様性や個性に苦しんでしまうことがあります。ハートというシンプルなデザインで、色々な個性を表現できる世界にしたいです。

パネルディスカッション終了とともに、イベントも終了。その後、ハートの絵を使い、実際に額装をデザインしてみる体験会が開催されました。展示されたハートの絵を購入する参加者もおり、橘さんと多喜さんの思いに感銘する方が多かったようです。

額装デザインの一例

精力的に活動するアーティストカップルから、今後「自分らしい生き方」を実現するためのヒントとエネルギーを頂けるイベントとなりました。2人と「ミリオンハートプロジェクト」の今後に、目が離せません。

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また合計150,014円(展覧会134,000円+トークイベント16,014円)の寄付金は

関西骨髄バンク推進協会 ¥29,669
日本赤十字台風19号災害義援金 ¥71,007
国境なき医師団 ¥49,338
に寄付させていただきました。

趣旨にご賛同・ご協力頂きまして皆さま、本当に有難うございました!