写真の魅力を伝えて、クリエイターが活躍する市場を広げたい
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、フォトグラファーの北村 倫成さん。建築写真や人物写真など、広告向けの写真撮影を多く手掛けておられます。そんな北村さんの写真に対する想いに迫りました。
インタビュアー / さとう れいこ
- フォトグラファー / 北村 倫成(きたむら みちなり)
- 2000年よりエリア情報誌「関西ウォーカー」で料理、人物撮影を担当。
2006年に独立。幅広いジャンルでさまざまな現場に立った経験を活かし、写真撮影だけでなく企業の写真撮影支援などの提案も行っている。
時代に合わせて仕事のやり方もアップデート
ーー個性的なフォルムで佇む建築物、趣のあるレトロな駅舎…北村さんのInstagramには、思わずため息が出るような色鮮やかで美しい写真が並ぶ。さすがプロのカメラマン。どんな機材を使っているのかと聞いたところ、驚きの答えが返ってきた。
実はiPhoneで撮ったものも多いんですよ。レンズとボディー合わせて100万ほどするような機材で撮ったものもありますが、どれがiPhoneで撮ったものか、わからないくらいきれいに撮れているでしょ?
iPhoneなどのスマホカメラの進化がすごいと思っているんです。なので、僕らカメラマンも仕事のやり方を変えていかなければならないと感じているんですよね。
昔は「写真を撮る」というのは特別な技能だったんです。でも、今はWEBの時代になり、スマホカメラが当たり前になって、SNSに誰でも写真をあげられるようになった。そうなれば、当然お客さんも変わっていく。
以前、ビジネスホテルの予約サイトに掲載する写真を撮影したことがありました。フロント、部屋の中などさまざまな場面に加え、併設されているコインランドリーの写真を撮ってほしいと現場で依頼されたんですよ。
コインランドリーって場所によっては暗いから、レンズを変えたり三脚立てたりと、もう大変。コインランドリーのほかにも撮る場所がたくさんあるわけですから、今まで通りのやり方でレンズ変えたりなんなりをしていたら追いつかない。
だから、お客さんに「ここはiPhoneで撮りますね」と提案するんです。最初はもちろん「え!?」という顔をされます(笑)カメラマンなのにカメラで撮らず、スマホってね。
でも、実際に撮ってみてその写真を見てもらうと「きれいに撮れている!これでOKです!」ってなるんですよ。
もちろんこれは、iPhoneでもゆがみのないきれいな写真が撮れることが前提です。でも、それくらい良い写真が撮れるのであれば、WEB上で情報として使うものは割り切ってサクサク撮れるiPhoneで構わないと思っています。その分、ポスターなどで使うメインの写真を時間かけてカメラで撮りませんか、という提案をすることが大事なんです。
そうやってどんどん新しい仕事のやり方を提案していって、時代とお客さんの要望に合わせてアップデートしていかないと。
SNSで簡単に個人が写真をアップできる時代になったけど、まだまだ写真のことを知らないっていう人が多いと思うんですよね。だからこういった提案ができて、やっぱりお金を払ってプロに頼んだ方がいいって言ってくれる人が増えたらいいと思っています。
現場で鍛えられた対応力
ーー北村さんが初めてカメラを持ったのは9歳の頃。大好きな電車の写真を撮ったことがきっかけで、カメラの世界へと進んでいく。
大学卒業後、企業に勤めたのですが、やっぱりカメラの仕事をしたいと思うようになりました。会社を辞めて、夜間の専門学校に通いながら昼間はアルバイト。働きながら勉強しました。
専門学校卒業後は編集プロダクションに入ることができ、そこからカメラマンデビューです。まずは情報誌に掲載する飲食店の取材から。1日に何件も回るのですが、店によって撮影環境が違うからライトスタンドを立てる場所も変わる。もう立てる場所すらない、という現場もありました。
「そんなときにどうするか」という対応力はかなり鍛えられましたね。撮影に対してはもちろん、コミュニケーションにおいても同じです。
例えば取材申し込みをしていたのに、うまく伝わっていなくて当日現場に行くとお店の方から「そんなの聞いてないよ」とか「忘れてた」とかね。
でも「撮れませんでした」じゃ済まされない。こちらで上手くやらないと、プロとしてダメですよね。
基本的に同じ現場はないんです。人を撮るにしても、顔の形、背の高さはそれぞれ違いますよね。情報誌でのカメラマン時代はめちゃくちゃ忙しくて大変でしたが、そういった現場での対応力は鍛えられたので、何があっても大丈夫だという自信はつきました。
現像作業はONtheUMEDAで
ーー編集プロダクションを経て、独立。その後、フリーランスのカメラマンとして忙しい日々を過ごす北村さん。ONtheは現像処理や事務作業など、パソコン作業する際に利用しているという。
現像って集中してやりたいんですよ。うちは3世代同居なので、どうしても家だと、ちょっと大変でね(笑)
そういった事務作業ができる場所がないかな、と探していた時に、仕事関係の方に紹介してもらったんです。ドロップインで利用したんですが、開放的な雰囲気が気に入ってその日のうちに会員になりました。
僕はロケ撮影が多いので、現場に行った日はONtheに寄って現像して帰宅する、といった流れで利用しています。パソコンはONtheのロッカーを借りて、そこに常に入れているんです。現場でiPhoneにデータを取り込んでおけば、ONtheについてクラウド経由ですぐにパソコンで作業できる。今までは現場にパソコンを持って行かなければならなかったので、荷物も減って楽ちんですよ。
ONtheに来るようになって、作業効率が飛躍的に上がりました。すごくありがたいですね。僕のような利用の仕方って、デザイナーさんやライターさんなど、クリエイターさんにおすすめですよ。まだ利用しはじめて半年ほどなので、そのうち顔馴染みの方もできてくるとうれしいなと思っています。
クリエイターの価値を上げるために、次の世代へ伝えること
ーー子どもの頃からずっと写真を撮り続けている北村さん。北村さんにとって写真の魅力とは?
写真って世界を広げるツールだと思っています。いつも会っている人の普段とまったく違う表情の写真が撮れたら、その人の違う一面を知ることになる。たった1枚で、世界がぐっと広がるんですよ。
例えば企業の採用ページに「うちはすごい精鋭集団です!」と文章で書かれていると、なんかすごい人たちばかりの集まりなんだと感じますよね。でも、そこに1枚、普段通り楽しく仕事している写真を添えると「いい雰囲気の会社だな」というのが伝わって、自分も応募してみようかな、と思ってもらえるかもしれない。つまり、その人、そして企業にとっても世界が広がるわけじゃないですか。
写真1枚で、いつも自分がいる世界とは違うところにいる人を惹きつけられることもあるんです。そこが写真の魅力だと思いますね。
だからこれからは「写真の魅力」の認知を上げるのと「プロが撮る良さ」を発信していくのが優先事項かなと思っています。同時にカメラマンだけでなく、クリエイターの価値やクオリティを上げることも必要だと感じているんです。
こういったクリエイティブな仕事は、クライアントに納得してもらう仕事をすることが大事なんですよね。それってコミュニケーションの部分が必要になってくるんです。
例えば仕事風景の撮影の場合、こういったポーズしてくださいと伝えても「普段こんなポーズで仕事しないよ」と言われてしまうことがあります。でも、そんなときに「一度撮ってみるから見てみてください。ほら、かっこいい写真になってるでしょ」と言えるか言えないかで、そのクリエイターに対する見方が変わってくるんですよ。
この対応力やコミュニケーション力こそが、クリエイターの価値を上げられるポイントなんじゃないかと思うんです。写真やクリエイターの価値を上げるために、僕がやれることはやっていきたいですね。
基本的にシャッターを押すっていうことは変わらずやっていきます。それにくわえ、クリエイターがクオリティを上げつつビジネスを続けていけるための力を、次の世代に伝えていけたらなと考えています。
編集後記
「機材はあくまでも自分のセンスや経験を反映できるツール。今はiPhoneを含め、さまざまな機材がありますよね。どの機材で何を撮るか、自分のセンスが活かせる時代です。だから自由な発想で自由に撮ればいいんです」
カメラ修行中の私は、どうしても機材に目が行きがち。
いやいや、そうじゃないんだ。まずはたくさん経験を積んで、現場力を鍛える方が大事。
「写真が上手くなりたいなら、やっぱり譲れないのは数。もう絶対、シャッターを押した数だと思っている」
そうおっしゃっていた北村さんの言葉を胸に、私は今日もシャッターを押しています。
(文:さとう れいこ、写真:今井 剛)