できないことより、できることに目を向ける。
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回は和歌山県立医科大学に所属の青木秀哲さんにインタビューさせていただきました。ポリオワクチンに関するお話や、大学での講義の様子。愛する千葉ロッテマリーンズに対する熱い思いなどをお伺いしました。
インタビュアー / コータロー
- 和歌山県立医科大学 リハビリテーション医学講座 博士研究員 / 青木 秀哲
- 和歌山県立医科大学に所属。生後10ヵ月の時に接種したワクチンにより、ポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)を発症。現在は非常勤の講師や、口腔外科の診療を行っている。千葉ロッテマリーンズの大ファンで、好きになったきっかけは「魂のエース」こと黒木知宏(通称ジョニー)元選手。
出生数100万人の時代に、4人の確率
− 本日はよろしくお願いします。大学の教授をされているとお伺いしています。
今は非常勤の講師をしたり、診療をしたり色々やってます。学校の資料を作ったり、次の現場に行く前に準備したりするときにここ(ONthe)を利用してるっていう感じですね。
− 診療というのはどんなことを?
歯科医師です。本当は医者になりたかったのですが。
生後10ヵ月の時にポリオワクチンの予防接種を受けたんですけど、それでポリオを発症してしまい、左足に麻痺が残ってしまいました。高校の頃に医学を希望してたんですけど、「その身体で受かる大学はない。」と言われました。それで、歯学部を薦められたのもあって、岐阜歯科大(現・朝日大)に行きました。
− ポリオの予防接種って確かうちの子も受けてたと思います。4種混合だったかな。
そうですね。昔は3種混合で、その頃は生ワクチンだったんですけど、2012年からは不活化ワクチンに切り替わったので、今はワクチンでポリオを発症することはありません。
− そうなんですね。恥ずかしながら、全然知りませんでした・・・。ワクチンでポリオを発症してしまう確率ってどれくらいだったんですか?
一年の出生数が100万人の時代に4人と言われいます。可能性で言えばみんな発症する可能性はあるんですが、そのときの体調だったり、たまたま接種したウイルスが強かったりといった理由で、極めてまれにポリオと同じ症状が出てしまいます。
それでまず左足に強い麻痺が出て、48歳の時にも二発目が来て、右足と左手にも少し麻痺が出てしまいました。
− 二発目、ですか?
はい。「ポストポリオ症候群(PPS)」と言って、ポリオの患者が40代~50代の頃に、ポリオの二次障害として手足の筋力低下やしびれ、痛みなどの症状が出ることがあるんです。
− 生後10ヵ月で受けたワクチンなのに、そんなに大人になってからも影響が出ることがあるんですね。ポリオのワクチンを接種されたときは、副作用の危険性みたいなことは言われてなかったんですか?
私が接種したのが昭和39年ですが、ワクチンが出来たのが38年なんです。だから今でいうコロナワクチンの最初の頃のように、情報も錯綜してるし正しい情報なんて分からなかった感じですね。
勝てそうなところを伸ばしていく
− 大学で学生さんによく伝えていることって何かありますか?ワクチンで経験されたこととか、何でも結構です。
前に勤めてた学校の古くから付き合いのある子は、ワクチンでこうなったっていうのは知ってますけど、毎回話したりはしないですね。小さい頃から悪いから、ある程度諦めも早いんですよ。無理なところはサッと引いて、勝てそうなところで頑張る。
小学校や中学校の頃に体育で他の子と同じように走らされて、みんな6秒とか7秒とかで走るところを12秒くらいかかってしまうので、よくからかわれたりしました。でも、「運動できなかったら、勉強頑張ったらいいやん。」って。「できないことよりも、できることに目を向けた方がいいよ。」って言ってます。
− 自分が変えられること、できることに焦点を絞るっていうことですね。
そうですね。実際こういう病気になったからこそ、こんな人たちに出会えたっていうこともありますし。自分が変えられないことは諦めて受け入れることも大事だと思います。
− やっぱり当事者の人にしか分からないことも多いのかな、と思いますが、そういう健常者の人に知ってもらいたいようなことって何かありますか?
まず、健常者の人に障害者に対するイメージなどを聞いて、それを障害のある方に伝えて感想を教えてもらう。そして、「こういう風に思われてることが多いけど、障害者の人は実際はそうじゃなくてこう思ってます。」っていうのを健常者の方にフィードバックして勉強してもらう、というようなこともやってます。
あと、優先座席の利用について関東と関西で分けてアンケートをとってデータを集めたり、そもそも優先座席についてどう思っているのか、パラリンピックの前後で意識がどう変わったのか、とか。「障害者」と一括りにまとめて考えてしまうと難しいと思います。
実は足の悪い人よりも、手の悪い人の方が電車でよくこけるんですよ。
− え?そうなんですか。
手すりを掴めないから、揺れたらこけてしまう。でも健常者の方に「手の悪い人に席を譲りますか?」って聞いたら、ピンとこないんです。イメージが沸かないらしくて。足の悪い人、足を怪我してる人には席を譲らないといけないっていう意識はあるけど、手の悪い人に席をゆずらないといけないっていう意味がまず分からない。
− 確かに。そういうことを教えてもらう機会もあまりないですよね。小学校くらいからもっと教えていく必要があるのかも。
去年、障害について学校で教育していきましょうっていう法案も出来たので、これからですね。技術は進んでるけど、個人の意識はあまり昔と変わってないと思います。
どこに行くにもアクセスが良い、ハブとなる場所「ONthe」
− 大学の資料を作ったりするのに「ONthe」を利用されているということですが、どうやって「ONthe」を知ったんですか?
大学が吹田だったので、乗り換えでよく梅田をうろうろしてました。それでこの近くの銀行をよく利用していて、それで知りました。自宅で作業してるとすぐ寝ちゃうんです、机で(笑)。だから、梅田近辺で作業できる良い場所があればいいなってずっと思ってて。
− 分かります(笑)。誘惑も多いし、僕も自宅ではなかなか捗らないですね。やはり家より集中できますか?
そうですね。いつもあの端っこに座るんですけど、集中しやすい作りになっているように感じますね。没頭できるっていうか。
− 「ONthe」以外の他のコワーキングスペースは利用されたことがありますか?
コワーキングスペースはないですが、ここに来る前にネットカフェみたいなところには行ってみました。でも、やっぱりちょっとうるさかったり、清潔面で「ここ無理やなぁ・・・。」って。それで「ONthe」に来たら凄く綺麗やし「絶対こっちやな。」って思いました。
今は色んなところに仕事に行くんですけど、それこそ曜日ごとに違うくらい。夕方から移動することもあるんですけど、それまでここで準備したり、溜まってた作業をして時間を潰したりしてますね。どこに行くにしても、次の場所へ行きやすいですよね。
千葉ロッテ愛!きっかけはジョニー
− お休みの日はどんなことをして過ごされてるんですか?
あんまり休みがないんですよね。自分で無理やり作らないと(笑)。「千葉ロッテマリーンズ」が好きなので、野球観戦によく行きます。
− 千葉まで行くんですか?
千葉もたまに行くんですけど、千葉のスタジアムは屋根がないんです。だから当日の雨が怖いので、「京セラドーム」とかですね。若い人はご存じないかもしれませんが、黒木っていう選手が好きで。
− 黒木って、ジョニーですよね?もちろん知ってます。
元々は巨人ファンだったんですけどね。黒木が出てくる前からも、村田兆治とかも好きだったので、ロッテも昔からそれなりに好きではありましたね。
− 村田兆治!まさかり投法ですね、懐かしい(笑)
黒木が出てきて凄く好きになって、投げてるところを生で見てみたいと思って、千葉まで見に行ったんです。そしたら千葉の応援って熱狂的で有名なんですけど、それを球場で見たらもっと好きになりました。
− ロッテは今シーズンは佐々木朗希選手と、ドラフト1位ルーキーの松川虎生捕手も注目されてて、凄く楽しみですよね。
ワクチンに対する思い
− 最後に、今まさに世間では新型コロナワクチンに関して、さまざまな情報が溢れているような状況ですが、ワクチンに対してどのように考えられているのかお聞きしてもよろしいですか?強く反対してる人も多いですよね。
そうですね。自分はこうやって被害者になってしまったんですが、ワクチンは打った方が良い、防げるもんは防いだらいいやんって思ってます。今はポリオも不活化だから感染することはないし。
少し前に帯状疱疹のワクチンも打ったんですが、その時に先生に「コロナのワクチンとは比にならないくらいキツイで。」って言われて、打ったらもう凄い腫れ上がって大変でしたね(笑)
編集後記
今回の対談後、色々調べるうちに、主に看護や福祉の世界で用いられている「ストレングスモデル」という考え方があることを知った。病気や障害がある人に対して「できないこと」に着目して治療や支援を行うのとは別の視点で、患者が持つ長所や強み(ストレングス)に注目し、「出来ること」「得意なこと」を伸ばしていこうというもの。
青木さんが仰っていた、「出来ないことより、出来ることに目を向ける。」というのもまさにそれに当てはまる。もちろん怪我人や障害者のケアに限った話ではなく、誰にでも言えることだと思う。
「失ったものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ。」これは、治療にスポーツを積極的に取り入れた、「パラリンピックの父」と呼ばれるルードヴィッヒ・グットマンの言葉。第二次世界大戦における戦闘で障害を持つことになった傷痍軍人が、病院内で生き生きとスポーツをしている。その光景を見て、グットマンはリハビリに効果があるということに気づいたという。
もし進むべき道に迷ってしまったり、周りにケアが必要な人がいたら、出来ることや強み(ストレングス)に視点を切り替えてみよう。きっと何かヒントが見つかるはず。
(文:コータロー、写真:今井剛)