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美容師が輝けば未来は変わる──美容業界をエンターテインメントへ

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、株式会社 CHAINONエンターテインメント代表取締役 坂口 貴徳さんです。坂口さんが目指す美容業界の未来や、提唱されているスタッフの個性を活かすプロダクション型経営の内容について教えてもらいました。

インタビュアー / さとう れいこ

株式会社 CHAINONエンターテインメント代表取締役 / 坂口 貴徳
美容室、エステサロン、飲食店、商品プロデュースやコンサル業など多岐に渡り事業を行っている。2021年「一般社団法人 日本美容改革推進協会」を設立し、美容師の働き方改革に向けたプロジェクトを開始。
著書「美容の未来のその先へ」

業界の環境を変えたい。背中を押してくれたのは1冊の本だった

自分に自信がもてなくて引っ込み思案、そんな学生時代の坂口さんを大きく変えたのは「美容室で髪を切る」ことでした。

「髪型で周りの反応が変わり、自分の興味の対象も漫画やゲームからファッションへと変化していきました。自分のように『髪を切ることがきっかけで、人生が変わる人が増えたらいい』そんな想いで美容師の道を選びました」

華やかなイメージがある美容業界。ところが実際に働いてみると、思い描いていた世界とは全く違ったと言います。

「想像以上に激務でした。それなのに給料は少ない。自分が体を壊してしまったこともあり、美容師の働く環境っておかしいのではないか、と感じるようになりました。

以前勤めていた美容室ではナンバー2の立場だったので、経営側の目線で考えて動いていたんですよね。どれだけやれば売上が上がるのか、効率がいいのか…でも、それだとスタッフは誰もついてきてくれず、どんどん辞めてしまう。
でも、スタッフにとって良い環境で働いてもらおうとすると、経営側と噛み合わなくなってしまう。この悪循環に当時かなり苦しみました」

美容業界の労務環境を変えたい、でも業界の体質がそれを許さない。チャレンジを諦めかけていたころ、当時読んでいたキングコング西野 亮廣さんの著書に感銘を受け、ご本人に直接会いに行くことを決意します。

「自分がしたいと思っていることを体現されている方でした。諦めかけていたチャレンジに背中を押してもらったような気がして、直接会ってお話したいと思ったんです。
お金を払えば会えるのでしょうけれど、それだとファンになってしまう。仕事としてお会いできるように、行動しました。

その結果、西野さんの講演会やイベントなどをお手伝いする、運営側に入ることができたんです。イベントなどでお手伝いをする中、西野さんとたくさんお話しさせていただきました。やはり行動することが大切だと感じています」

その後、坂口さんは独立。わずか3年で10店舗展開と、スピーディーに事業を拡大されていますが、当時独立を考えていなかったそうです。

「勤めていた美容室で、別事業をさせてもらえないかと提案したんです。残念ながらそれは叶わず、急遽独立することになるのですが…とにかくお金も経営の知識もない、オープンする店舗すら決まっていない状態です。

そんな時、西野さんの紹介で知り合った美容室経営の先輩から、店舗を貸していただけることになったんです。初めてお会いした時からとても良くしていただいて、本当にありがたかったですね。また、2店舗目のオープンの際も、経営者の先輩方にずいぶん助けられました」

この経験から、人とのつながりの大切さを身を持って感じたと坂口さんは言います。

「困っていたら助けてくれて、応援してくれて、投資してくれて、本当にいい先輩方に恵まれ、僕を引き上げてくれました。次はそのいただいた恩を、僕が送る番です。困っている人を助けたいんですよね。業界の環境を変えて、働くスタッフを幸せにしたい。恩送りというか、そういう世界が広がればいいな、と思っています」

スタッフを輝かせる、プロダクション型経営

業界に多いトップダウン型の経営。しかし、それではスタッフは幸せになれないし、お客さんにも喜んでもらえないと言います。坂口さんの美容室は、スタッフの個性を活かす「プロダクション型経営」です。

「スタッフが輝いていない美容室に、お客さんは来てくれません。それは美容室だけでなく、飲食店なんかもそうですよね。いくらマネジメントがよくても、そこで働くスタッフが居心地よく思っていないと、絶対伸びない。今までのようなトップダウン型の経営では、いいチームにならないし、お客さんにも喜んでもらえないんです。

だからうちではひとつのコミュニティとして、上下関係なし、フラットな関係でやってます。そして、お客さんがどうしたら喜んでくれるか考え、意見を出してもらい、スタッフが『やってみたい』ということに挑戦できるようにサポートしてあげる。それぞれがイキイキと働ける環境であれば、離職防止にもなるし、売上アップにもつながるんです」

実際にアップされているInstagramやTikTokをみると、スタッフの方とのフラットで楽しそうな雰囲気が伝わります。

「僕はSNS上でスタッフとコミュニケーションをとるんです。すると、スタッフの周りの美容師さんがそれをみて、うちに興味をもってくれる。SNSでうちの雰囲気や、スタッフが楽しんで働く姿を見て、入社を希望してくれる方が増えました。求人を出さなくても、いいスタッフが集まってくれるんです」

2022年からはYouTubeチャンネルがスタートし、スタッフ4名が「サロンで会えるYouTuber」として活躍。おしり縄跳び、たこ焼き大食い対決などでスタッフが対決、負けたらバンジージャンプが待っている…と、美容についての発信ではなく、あくまでもエンターテインメントな内容です。

「ずっと言われていますが、これからは個人の時代です。僕はこれから人を中心として商品が売れる、PtoC(P2C)を確立していきたいんですね。だからそのために注目を浴びないといけない。そのためのコンテンツがYouTubeです。スタッフにファンがつけば来店に繋がるし、ブランドを作ったら売れるし、販売チャンネルになるんです。

さらに求人にもいい効果が出ますよね。今までの美容師は、美容室で何年か技術を磨いて、それから独立するというビジネスモデル。でも、うちにくればスタイリストになれて、YouTuberにもなれるし、ブランドも立ち上げられるってなったら、どっちの美容室で働きたいかは明確ですよね」

楽しい場所に、人は集まる

さまざまな事業を展開する坂口さん。ONthe UMEDAは商談や事務作業、店舗ミーティングなどで利用されています。

「ゆったりとして居心地がいいですよね。スタッフの方がいつも笑顔だし、親切。やはり『そこで働く人』って大切だな、と思いますよね」

これだけの事業を展開しているので、もう現場には立っていないのかと思いきや、今も週3でカットされているそう。(現在、新規の受付はされていません)

「僕じゃないと、と言って十数年通ってくださる方が何人もいらっしゃいます。新人の時からずっと応援してくれて。最近どう?みたいな、近況報告を聞きに来てくださる感じですね。はさみを持ってコミュニケーション取るのはやっぱり好きだし、現場に立つことは自分の原点ですからね」

また、これからの経営者は発信力がなければ生き残れないと坂口さんは言います。自身の発信力を高めるため、タレント事務所に入られたそうです。

「今後は自分自身がメディアになっていこうと思っています。メディア戦略をとことん磨けば、スタッフが何かやりたいときに打ち出しやすいですから。スタッフがイキイキと輝く環境さえ作り続ければ、あとは勝手に事業は伸びる。

楽しいところにしか、人は集まらないんですよ。その確固たるものが芸能ですよね。ファンビジネスの点でいうと、タレントと美容師は似ているんです。

だからそのスキームを取り入れて、僕が提唱しているビジネスモデル「プロダクション型経営」というのを、どんどん広げていきたいと思っています」

【TikTok】https://www.tiktok.com/@sakaguchan10

【YouTube:BBBなんて言わせない】https://www.youtube.com/channel/UCnUBBkBlzdv4cd-o-509PTA

編集後記

「とにかくおもしろいことしたいんですよ」

そう言ってTikTokをみせてくれた坂口さん。
そこには、あつあつコーヒーに顔面パイ…何をされてもゼッタイに怒らない社長、坂口さんの姿が!

こんな職場だったら毎日たのしいだろうな。
人を活かす「プロダクション型経営」。
美容の世界だけでなく、さまざまな業界に影響を与えるのだと感じました。

(文:さとう れいこ、写真:今井 剛)