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アナログ製品の手間が生み出す豊かな時間が、子供たちの豊かな未来へつながる

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、jetsetter株式会社 代表取締役の村雲伸二さん。丁寧な暮らしを彩るこだわりのアナログ製品を私たちに提案してくれています。村雲さんがアナログ製品を大切にする理由や、子供たちの未来をサポートするボランティア活動の内容について教えてもらいました。

インタビュアー / さとう れいこ

jetsetter株式会社 代表取締役 / 村雲 伸二
大学卒業後、欧州系外資系企業に就職。パリ支店勤務を経て、国内卸商社に転職する。その後、jetsetter株式会社を設立。
特定非営利活動法人クラウドランディングプロデューサー協会認定クラファンキューレター。
土日は地域の少年サッカーチームで、コーチとして子供たちにサッカーの指導をしている。

万年筆を使って、いつもより少し丁寧な暮らしを

村雲さんの経歴を伺うと、海外留学されていたり、海外でお仕事されていたりと、海外との関わりが多い。

「実はファッションデザイナーになりたい、パリで働きたいと夢みていた時期がありました。でも、デザインのセンスでどこまで食べていけるのかという不安もあって、じゃあ違う方法でパリで仕事ができればいいかな、と。

そんなぼんやりした考えで大学時代にイギリスに語学留学をしたのですが、ヨーロッパの生活がすごく心地良くて、どんな職業に就きたいという考えよりは、とにかくヨーロッパで働きたい、というのが第一になってしまいました」

そうして就職したのが旅行業界。転職など紆余曲折を経て、念願のヨーロッパ勤務が叶った。その後、長男が誕生し、子育ては日本ですることを決め帰国。

万年筆や機械式時計、革小物を輸入する商社へと転職します。全くの異業種へと飛び込んだ村雲さんですが、当初それほど万年筆に興味があったわけではないと言います。

「イタリアの万年筆工房へ行ったときに、これは面白い、売れる!と思ったんです。
当時、万年筆といえばドイツのモンブラン、国内ブランドだとパイロットやセーラーです。イタリアの万年筆はそこまで出回っていなかったのですが、万年筆の色や形など、セールスポイントがいっぱいある。上手くブランディングすれば、ヒットするはずだと感じましたね」

また、万年筆が時計の市場とマッチするのではないかと考え、時計店に万年筆を売るという、驚きの営業を行った。

「時計は市場が大きくて、大手の商社しか相手にされなかったんです。僕は高級時計店に時計を売るのではなく、高級万年筆を売りに行った。そうすると、時計は見向きもしなかったのに、万年筆の話だと聞いてくれたんです」

他の営業マンがスーツにネクタイという型にはまった姿で営業にいく中、村雲さんはノーネクタイにチノパンという、これまた周りが驚くようなスタイルで行っていたそうだ。万年筆の売り上げを伸ばしていく中で、会社組織の中だけではできないことをしていきたいと考えるようになった。

「会社の方針があるので、自分のやりたいことを全てできるものではありません。『我慢』、サラリーマンだったら誰しも感じたことがあるのではないでしょうか。家のローンも終わり、息子たちも大学に入ったところで、自分のやりたいことができるよう、独立を決めました。

独立して、もっと万年筆を広めたい。万年筆を持って自分と向き合う時間を大切にしてほしいという想いがあります。1日5分でいいから紙に自分の想いを綴ってみる、日記を書いてみる。万年筆にインクを入れるのも少し手間ですが、その手間が豊かな心を与えてくれるのではないかと思っています。

普段の暮らしよりも少しだけ丁寧な暮らしができる、そういう時間や物を、僕はプロデュースしていきたいと考えています」

ちゃんと向き合いたい。だから資格を取る

村雲さんの経歴で気になるポイントがもう一つ。調理師免許、日本サッカー協会 3級審判員、公認指導者C級コーチ、日本ソムリエ協会 認定ワインエキスパート、特定非営利活動法人クラウドランディングプロデューサー協会 認定クラファンキューレターなどなど…多ジャンルに広がる資格の数々。

「調理師免許を取得したのはサラリーマン時代。さっきも言ったように、サラリーマンって色々我慢することが多いですよね。その時に、何か心のよりどころが欲しいと思ったんです。俺には調理師免許があるから、いつかは自分でレストランができるんだぞ、って。保険みたいなものです。ワインエキスパートの資格も同じようなものですね」

また、息子さんとの親子サッカーがきっかけで、地域の小学生が集まるサッカーチームのコーチをすることになった村雲さんは、サッカー関係の資格も取得。

「コーチはボランティアなんですが、だからといって手を抜くわけにはいかないじゃないですか。指導者として責任をもって活動したかったので、コーチと審判員の資格を取りました」

また、サッカーがきっかけでキャリアコンサルタントの国家資格も勉強中だとか。

「サッカーチームを卒団していった子供たちから、将来について相談を受けることが増えたんです。サッカーがしたくて強豪高へ進学したけれど、この先どうやってサッカーと向き合っていくのか、サッカーを辞めて大学に進むのか…そんな悩みを聞いていると、ちゃんとアドバイスしてあげたいと思いました。

親が進路についてアドバイスすると、どうしても近づきすぎてしまうところがありますよね。親なんだから子供を心配して、干渉するのは当然です。

でも僕は親でもない、同級生でもない、近所のただのおっちゃんなので、ナナメの関係のいい距離感でアドバイスできるんじゃないかと思っています。僕は何度も転職をしているし、いろいろな経験をしてきた強みがあるので、もっと安心して相談してもらえるように、キャリアコンサルタントの勉強をしています」

子供たちの教育格差をなくしたい

サッカーチームでの子供たちへの思いも重なって、万年筆のインクを使って認定NPO法人カタリバへの支援活動も行っている。

認定NPO法人カタリバとは、どんな環境に生まれ育った10代も、未来を自らつくりだす意欲と創造性を育める社会を目指して活動している教育NPO。高校への出張授業プログラムから始まり、2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組んでいる団体だ。

「サッカーを通して感じたのは、子供たちの教育格差です。うちのサッカーチームは公立の小学校のグラウンドを借りて、土日しか練習ができない。でも、もっとサッカーが上手くなりたいって子たちは、平日も指導してくれるサッカーの塾に行きます。これって経済的に余裕がないとできないですよね。強いチームになればなるほど、合宿や遠征など、なにかにつけてお金が必要です。

土日にしか練習ができない子供と、毎日練習できる子供だと、どうしてもサッカーの技術に差がついてしまいます。そうなると、サッカー選手になる道も差がついてしまいますよね。

これはサッカーだけでなく、勉強でも同じです。私立中学へ進学したいから、塾へ通うのと同じこと。

こうしてどんどん広がる教育格差を少しでも改善したいと思っていたところ、同じような想いで活動されている認定NPO法人カタリバさんと出会いました。

そこで、jetsetterのプロデュースする万年筆のインクで子供たちの未来をサポートするプロジェクトを立ち上げることにしました。日本の子供たちの未来を応援するカタリバさんの取り組みをイメージしたインクをjetsetterが台湾のメーカーと制作、その売り上げの一部をカタリバさんに寄付するというものです。

寄付というと、自分達の生活がいっぱいいっぱいだと、その気持ちはあっても、なかなかできないという現状があると思います。肩肘はって寄付するというよりは、インクをたくさん使ってもらって、カタリバさんの『子供たちの未来をサポートするプロジェクト』を応援する、といった流れを生み出せたらと思っています」

スタッフの気遣いが心地よい、ONthe UMEDA

ONthe UMEDAを頻繁に利用する村雲さん。お気に入りはエントランス窓側の席だそう。

「商談で使うことが多いのですが、明るくて洗練された雰囲気にお客様も喜んでくださります。集中したいな、という時はソロワークスペースを使うことも。

最近オープンしたCAFE ONthe ホンマチも利用します。コーヒーがおいしいんですよ。

そうそう、先日ホンマチの帰り際、スタッフの方が『外は寒いですし、先ほど飲まれたコーヒーと別のお味のものを持って帰ってください』と言って、持ち帰り用のコーヒー渡してくれたんです。気遣いがとても嬉しいですよね。

どちらもスタッフの対応がとても良くて、いつ来ても気持ちよく過ごせる。すごくいい空間だと思っています」

若者の未来のため、そしてアナログ製品を使った丁寧な生活のため

仕事やボランティア活動と、日々奮闘されている村雲さん。日常を豊かにする、上質で心地よい生活を提案していきたいと言います。

「気持ちの面での『贅沢な暮らし』というのを自分もしたいですし、もっとみなさんに知ってほしいですね。今の世の中とても便利になっていますが、便利になればなるほど、万年筆や機械式時計などのアナログなものに価値が出てくると思っています。

また、万年筆を使った生活では、インクを買うことで子供たちの未来をサポートする、カタリバさんとのプロジェクトにもつながります。これは寄付しようと思って買うのではなく、自分の好きなことをしていて、知らないうちにプロジェクトを応援している、という流れです。

アナログ製品を使うことで自分の日常が豊かになるだけでなく、子供たちの未来を豊かにすることにつながるのです。

その上で、若者のアスリートとしてのセカンドキャリアを支援する活動をしていきたいですね。

例えばサッカーだったら、高校まで部活動としてがっつりサッカーをするのか、将来プロを目指すのか、大きくふたつの道があります。
いずれにしても、その先のことまで考えてほしいと思っています。高校までサッカーをしてその後どう進むのか、プロを目指して叶わなかった場合はどうするのか、そこまで考えないと、社会で自立できないまま人生を過ごしてしまうことになります。
実際にサッカー漬けの毎日を送っていたけれどプロになれず、企業に就職することもなく、アルバイトで食い繋いでいる若者がたくさんいます。そんな若者を一人でも減らすため、自分にしかできない何かをしたいです。

今後もアナログ製品を使って、何かしら社会に貢献ができればと思っています」

編集後記

「万年筆って筆圧いらないんですよ。だから昔の作家さんって、原稿用紙に何枚も手書きで書けたんです」

そういって村雲さんは、私に万年筆を渡してくれました。
そっとペン先を紙に置くと、スルスルと流れていくように文字が書ける。あまりのスムーズさに「おぉ!!」と声が出てしまいました。

万年筆がこんなにも書き心地がいいとは思わなかった。家に帰ったら、机の奥にしまっている万年筆を出してみよう。自分と向き合う時間を作って、少しでも丁寧に過ごせたら…そして、子供たちの未来を、少しでもサポートすることができればいいな。

                                   (文:さとう れいこ、写真:今井剛)