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怠け者だけど、選んだ事は本気で楽しむ。たどり着いたのは起業家の道

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。“はじめまして感”を与えることなく、カメラを向ければニコッと自然な笑顔が飛び出す。自分を大きく見せることもないし、楽しそうに話してくれる。そんな人が今回のインタビュイ―吉國さんだ。「天真爛漫とはまさにこのことか」と感じさせる、彼女の魅力に迫ってみようと思う。

インタビュアー / 宮内 めぐみ

フリーランス(起業準備中) / 吉國 聖乃(よしくに きよの)
高専にて化学系の学科を5年間過ごした後、大学・大学院に進学。理学部化学科を修了し、大学の法医学教室にたまたま縁があり就職したことをきっかけに遺体の解剖に携わるという稀有な経験を重ねる。その後IT業界での転職によりエンジニアとなり、これらの経験を活かした起業を目指して、準備中。(2021年8月現在)

お決まりのセリフは「なんか、楽しそう」

自由気まま、なのに、なんだかこの人には期待値が上がる。そんなふうに思わされた、今回のお相手は、理化学や法医学を学んできたというTHE理系女子。
何を隠そう私は化学で8点を取ったことのある理系ポンコツなので、そのような業界の方は後光が差すかのような眩しい存在である。
目の前の吉國さんは理系も理系。高専を経ての理学部化学科への進学、おまけに大学院まで行くというエキスパートっぷりだ。もちろんのこと、これでもか!というほどの後光が差している。

現在は起業準備中のフリーランスとして、「大阪市立大学 健康科学イノベーションセンターでの特任研究員」と、「Rehabilitation 3.0株式会社 のシステムエンジニア」という2つの肩書を背負っているそうだ。
ちなみに、彼女の経歴の変わり目には必ず共通のセリフが登場する。

「なんか、楽しそうだったから」

ワクワクしたら、とりあえず流されてみる派

院生時代、研究施設での事務作業アルバイトに応募した結果、「え?君、化学科なの?院にも行ってるの?じゃあ卒業したらウチ来なよ!」と言われ、「え!?いいんですか?」と二つ返事で就職した。
27歳になると、これからはITだと考え、未経験のエンジニア職へと道を進む。

「理系だし、ゲームできるから、まぁいけるっしょ!」というノリと勢いでベンチャー企業に転職した。
新規事業開発を担当したことで、今度は起業が楽しそうだと感じ始めた。
先のことは考えずにとりあえず辞める日だけを決めて、2ヶ月後には滞りなく退職する。

同時期に縁があったのが、現在担当しているRehabilitation3.0株式会社。
翌月から無職な状況にありながら「これからどうにかします(笑)」と話したら「ちょうどシステムエンジニアが欲しかったので、仕事手伝ってくれない?」と言われパートナーになった。

現在準備している起業も、もともとビジネスアイディアがあって起業するというよりは、起業スタイルが「なんか楽しそう」という発端である。

ポンポンと出てくる身軽なエピソードと、「キャリア」という言葉が持つ重みとのバランスがどうも落ち着かなくて、思わず聞いてしまった。
「そんな勢いまかせで『あぁ〜この選択しなければよかった!』というときはなかったんですか?」

「ミスや失敗はあるけど、選択を後悔したことはないです。ない、というよりは、負けず嫌いの性格なので、自分で選択したことに後悔したくないのかもしれません(笑)
もともと、『絶対こうしたい!』という強い意思があまりないタイプで、楽しそうだな〜と思ったらとりあえず流されてみます。だけど『せっかくこれを選んだからには楽しむしかない!』と本気で取り掛かるんですよね。結果的に何でも楽しくなっちゃって、後悔は全く感じてないです。」

と、吉國さんはにっこりした。

嘘じゃなくて、本当に怠け者

「何でも本気でやって楽しんでしまう」ということから察するに、常に相手の求めるラインを越え続ける人なのだろう。

それってめっちゃデキる人のパターンやん、と内心思いながら話を聞いていると、
「いやぁ〜、私、本当に根っからの怠け者なんですよ〜。すぐにサボっちゃいます。」

と謙遜もする。

さすが、デキる人は謙虚だなぁ。

「確かに求められるラインはきっちり応えようとするんですが、ラインを大幅に超えるような頑張りはしません。むしろ、学生時代で言えば、“60点とれば合格”の場合『じゃあ50点くらいまで取っておけばあとは先生が何とかしてくれるやろ〜』って思っていたタイプです。」

・・・ん?

「『テスト勉強全然やってない〜』と言いながらちゃんと家で勉強してくる、いわゆる“コソ勉”ってあるじゃないですか。私は友人と一緒にいる時だけはきちんと勉強していました。家で一人になれば絶対に怠けてしまうので。
勉強姿を見ている友人にとっては、“私=めっちゃ勉強する人”という印象を持っていたようですが、なんせ家では怠けているので、大した点数を取るわけでもないんですよね。
周りからすれば不思議な現象が起きているわけです。『あれ?あんなに勉強してたのにこの点数???』って言われていました(笑)
宿題もサボれるだけサボりましたし、授業もできるだけ楽をしたかったです。見兼ねた友人が心配して授業のノートをとってきてくれたこともあります。」

・・・あれれ?
これは謙遜ではないと確信が走る。なかなか肝が据わった怠け者である。

しかしながら、ここまであっけらかんとして、楽しそうに自分の怠け具合を説明してくれる人もあまりいないのではないだろうか。
そう言えば、フリーランスとしての名刺にも自ら「ナマケモノ」と書かれていることに気づいた。

怠けてしまう人をシステムの力でなんとかしたい

自他共に認める“真の怠け者”とは言え、やはりきちんとやるときはやる、というのが吉國さん。

ONtheと関わるきっかけでもあるビジネスパートナーのRehabilitation3.0株式会社とは、新規事業を実現すべくエンジニアとの間に立って調整する役回りを担っている。
社長の増田浩和さんも、彼女の専門知識はもちろんのこと、明るく冷静さのあるコミュニケーション力に期待を持たれているようだ。

加えて、これまでの経験を活かしながら着実に自分でやりたいことを実現すべく、目下起業準備中である。

「以前勤めていた会社では、現場のエンジニアとして働いていましたが、もっと設計部分から関わりたいと思って転職しました。自分は何かの専門家であるというよりは、プロジェクトがスムーズに進むために動くほうが楽しいと感じます。
会社員も楽しくて一生できるな〜と思っているのですが、起業やベンチャー企業の方々と付き合いがある中で、自分も起業したくなりました。
能力はあるのに努力が続かない、まさに私のような“ついつい怠けちゃうタイプ”にアプローチして、最大限に力を発揮できるような仕組みを考えています。
起業する日は・・・えー、11月1日にします!」

宣言しておきます!宣言しないと怠けるんで!と、笑いながらこれからの展望を話してくれた吉國さん。
その表情には腹をくくった潔さと、後ろを振り向くことのないさっぱりとした性格が垣間見える。

周りへの感謝を絶対に忘れないスタンス

話も終盤に差し掛かると、あんなに(?)怠け者なキャラだった吉國さんが、楽しいことには貪欲で、「一度手をだしたからには必ずやり遂げる!」という意思の強さも持ち合わせている人なのだとわかってきた。

怠けているのにやるときはやる。このギャップはむしろかっこよくて憧れてしまう。
そんな人が人生で大切にしているのはどんなことなのだろう?

「今、私が楽しくいられるのは周りの皆さんのおかげなんです。ONtheでイベントの集客を頼った時もスタッフの方がご尽力してくださったおかげで人が集まったし、学生時代は友人に本当に助けられた。下手したら留年していたので!そして、私という人間を生んでくれ、愛情をたっぷり注いでくれた親のおかげでもあります。
皆さんにはめちゃくちゃ迷惑をかけまくっていると思いますが、本当にたくさんの愛をいただいてとても感謝しています。
だからいつも大切にしているのは『自分に素直でいること』と、『周りへの感謝』です。」

なんだ、やっぱり謙虚な人なんじゃないか。

常に明るくあっけらかんとして、適度に怠けながらも謙虚であり、宣言したことは最後まできっちり応えてくれる。だから周囲の人も「もぉ〜」と言いつつ一緒にいて楽しいのだと思う。

そんな彼女の、起業への挑戦はこれから。
きっと、なんだかんだできっちり仕上げてくるに違いない。今後がとても楽しみだ。

編集後記

吉國さんが語る自身の経歴や学生時代の話はすべて楽しそうだったのが印象的です。
もしも吉國さんがドヤ感と共にこの話をしていたら、恐らく私はまっすぐ聞き入れられなかったでしょう。
「恋愛だけはからっきし駄目なんですけどね〜!彼氏募集中です!」と笑いながら話し、再三にわたって怠け者だと自虐で話されていましたが、やはり根底で強く持っている謙虚さと感謝の気持ちはどこか漂っていたように思います。

初対面からガッチリと掴まれたのは、やっぱりそんなギャップにやられてしまったんだろうなぁ・・・。