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子ども達に学ぶ、心を動かす「聴く力」。

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回は小学校で教員をされている、森田智宏さん。学校で生徒と接するときに気を付けていることや、消極的だった生徒が心を開いてくれたエピソードなど、子どもとのコミュニケーションのヒントが得られる大変貴重なお話。お父さんやお母さん、子どもと関わる仕事をしている人はきっと参考になると思います。

インタビュアー / コータロー

小学校教員 / 森田 智宏
子どもの頃のとある経験をきっかけに、教師になることを決意。教育大学を経て小学校教員になり、夢を叶える。現在は小学四年生の担任として学校で子供と向き合う日々。休日の日など、学校以外の時間はオンライン勉強会や、NPOの活動などを積極的に行い、自己研鑽に励んでいる。

恥ずかしくて声も出せない。内気だった僕の心を開いてくれた、ある先生との出会い。

− 小学校で教師をされていると伺っています。小学校の先生って、何か特定の科目だけを教えてるのではなくて、国語、算数…体育とか、担任のクラスの授業を全部教えるんですよね?

そうですね。教師になって三年目なんですけど、今は小学四年生の担任をしています。学校によって違うと思うんですけど、今いる学校は音楽と理科だけ担当の先生がいて、それ以外は担任が全部教えます。

− 学生の頃から、教員になるための勉強をされてたんですか?

はい。教育大で学んで、卒業して教師になりました。学校の先生になりたいと思ったのも結構早くて、中学三年生くらいの頃には決めてましたね。

− それは早いですね。何かきっかけがあったんですか?

子どもの頃は本当に内気で、人前で声を出すことも出来ませんでした。国語の授業で「〇〇君、教科書の何ページを読んで。」って、音読するじゃないですか?僕はそれであてられても声を出せず、泣いていたような子どもだったんです。

− 僕も泣くほどではなかったですが、恥ずかしがり屋で人見知りする方だったので、なんとなく分かりますね。

それが中学生になってもずっと続いてたんですけど、大阪の元気なおばちゃん!っていう感じの先生がいて、その先生に毎日大声で「おはよう!」って挨拶されるんです。三年間毎日ずっと。そのテンションが、内気な少年だった僕には無理で…。挨拶を返すことも出来ずにずっと無視してたんです。

でも、それでも嫌な顔一つせずに、ずっと挨拶し続けてくれたし、気にかけて話しかけてくれました。それが1年、2年、3年とずっと続くと、僕もちょっと話していいのかな、と徐々に心を許せるようになってきたんですよ。少しずつ自分を出せるようになって、変われたんです。その経験が大きくて。

子どもの頃の僕のように、声を出せないような大人しい子にも寄り添ってあげられる、あの先生みたいになりたい、そう思ったのがきっかけですね。

9割しんどくても、1割の感動が大きいから頑張れる。

− 実際、先生になってみてどうすか?イメージしていたものとのギャップとか。

いやぁ大変ですね(苦笑)。

− 授業が終わってからはどんなことをされてるんですか?テストの採点とか?

そうですね。あと会議があります。職員会議や、算数、国語などの担当している科目ごとの会議とか。ちょっとフォローが必要な子がいたら、その子ひとりのために会議したりします。教師になって1年目の頃は、なかなか慣れてなかったのもあって、20時~21時くらいまで学校で仕事してました。

辛い、しんどいというのが9割で、やりがいや喜びが1割って言う感じですかね。でも、その1割の感動が凄く大きいから頑張れるんですよね。

− その1割の感動というのは、例えばどんなことでしょうか?

子どもの頃の僕と同じように、手も上げないし、全く声も出さない女の子がいたんですけど、何とか心を開いてもらおうと色々と工夫しながら接してきました。それで、3月の最後に文化祭みたいなイベントがあって、各クラスでお化け屋敷とか、ボーリング場を作ったり、出し物をするんです。

その時に、その大人しかった女の子が店長役になって、みんなの前で大声で指示を出したり、全校放送で「うちのクラスはこんなことをします~」って堂々と言ってくれたんです。4月の頃はとてもそんなこと言える子じゃなかった。なのに最後の最後でドカンと大きな花火をあげてくれたというか、そういった変化や成長を見れると1年間大変だったけど、そんなのもう全部吹き飛んで嬉しい気持ちでいっぱいになりますね。

− 確かにそれは嬉しいですね。先生の役割って勉強を教えるってことだけじゃないですもんね。他にも、子どもから教えられることって何かありますか?

色々ありますね。今日もあったんですけど、今音読をやっていて「来週これやるから、ちょっと練習してきて。」って金曜日にお願いしてたんです。それで週明けの今日確認したら、これ「江戸しりとり歌 (下記、画像参照)」って言うんですけど、これを丸々全部覚えて来たんですよ。

森田さんのクラスの生徒さんが丸々覚えてきたという「江戸しりとり歌」

− え、これ全部ですか!?それは凄い。昔の歌で聞きなれない言葉が多いから、難しいですよね。僕は3行でも無理かも・・・(笑)

子どもって、そういう集中力というか、やる気になった時のパワーが凄いんです。そんなに頑張ってきてくれたんだから、こっちも頑張らないと!って刺激されますね。

子どもの言いたいことに、最後まで耳を傾ける。

− 教師になる人って、どういうタイプの人が向いてると思いますか?

うーん、一般的には明るくて、人と話すのが得意で盛り上げ上手、みたいな人と思われるんですけど、僕はそうは思わないですね。子ども達もみんながそういう先生が好きなわけじゃないですし、向き不向きというのはあまり考えなくていいと思います。

大学生の頃に、小学校にボランティアに行ってたんですけど、何も出来なくて教室の後ろの方に突っ立ってるだけ、みたいな日々が1年半くらい続いてました。それで、もうすぐ教員採用試験って時に「僕、教室にいても何にも出来ないんですけど・・・教師にならない方が良いんですかね?」って、ボランティアの先生に聞いたんです。
するとその先生に叱られまして、「何を言うてんねん!君は自分から話に行くというタイプじゃないけど、子どもの話をちゃんと最後まで聞いてあげてるでしょ。それが出来る人は少ないし、話を聞いてくれる先生を求める子もたくさんいる。だから、そこを伸ばしていけばいい。君こそ先生になりなさい!」そう言われました。

− 確かに子どもの話を最後まで聞かないで、途中で遮ったり、決めつけで言い返したりしがちですね。

途中で口を挟みそうになるんですけど、それを我慢して最後まで聞くと、こちらの言う事もすんなり受け止めてくれます。
例えば、友達の持ち物を取っちゃった子がいて「なんで取ったの?」って理由を聞いたら「そこにあったから。」と。普通なら「人のモノを勝手に取ったらダメでしょ!」ってすぐ怒りたくなるんですけど、そこをちょっとこらえて、「なるほどな。置いてあったら、ちょっと取りたくなるよな。」って一度ちゃんと受け入れてあげる。その後に「でも、自分のモノを勝手に取られたらどう思う?」って聞いてあげると、いつもはなかなか言う事を聞かない子なのに、「確かに自分も取られたら嫌」って、取ったものをポンっと返してくれました。

話を聞くって、こちらからは何もアクションをしてないんですけど、効果絶大なんです。頭ごなしに否定しちゃうと、今後のその子との信頼関係にも影響してしまいます。

人生の幅が広がる場所「ONthe UMEDA」

− 学校の先生がONtheをどのように利用されてるのか、凄く興味深いのですが。

教員って良くも悪くも、職員室の中だけで全部完結しちゃうので、外との繋がりとか、他の業種の方とかと触れ合う機会が全くないんです。みんなどんな仕事をして、どんな感じで働いてるんだろう?って。外の世界を知りたくて、ここに通おうって思いました。

オンライン上で教員のつながりがあって、みんなでZOOMで勉強会するときに使ったり、ひとりで勉強したりしてます。ONtheを紹介してもらって初めて来たときに、落ち着く空間だなぁって思いました。実際に作業してみて、凄く快適ですね。

− 異業種の方と接する機会はありました?

はい。プロの姿勢改善トレーナーの方に姿勢をみてもらったり、とある企業の秘書の方から会社の話を伺ったり。ONtheに来てからセミナーや勉強会の活動も増えましたし、自分の生活というか人生というか、凄く幅が広がりましたね。

「敵対関係」ではなく、「協働で子供を支える関係」に。

− 生徒さんではなく、保護者の方に何か伝えたいことはありますか?

これはちょっとお願いみたいになるかもしれませんが、今はコロナの影響で参観もなくて、学校や授業の様子もなかなか分からない。だから保護者の方も不安なところもあると思います。ただ、先生もみんな本当に苦心して、明日の授業どうしようか考えたり、コロナ対策で除菌したり、毎日力尽きるくらい頑張ってます。

だから、学校と保護者の方と、敵対するんじゃなくて協働で子ども達を支える関係になりたいと思っています。

− 最後に、個人的に凄く気になっていたことをお聞きしてもいいですか?

はい、何でしょう。

− 校長先生って普段何をされてるんですか(笑)?

凄く多忙ですよ!書類を確認したり、教育委員会とのつながりや、地域の方とのつながりもあるし、何かあった時は先頭に立って動かないといけないですし。

− 校長室でゴルフのパッティングの練習をしてるイメージでしたが、さすが学校のトップ。お忙しいんですね、大変失礼しました。でも凄くすっきりしました(笑)

− 本日は大変貴重なお話、ありがとうございました。

編集者後記

森田さんのお話をお伺いしていて、イソップ童話の「太陽と風」が頭に浮かんだ。力づくで一気に旅人のコートを吹き飛ばそうとした「風」。対して、ポカポカとゆっくり時間をかけて旅人を照らし続けた「太陽」。皆さんご存知の通り、コートを脱がすことに成功したのは太陽。

子どもの心も無理には動かせない。怒鳴ったり、頭ごなしに否定せず、焦らずじっくりと子どもの話を聴いてあげる。そんな森田先生のような人に、子どもは心を開くのだろう。親(大人)も子どもから学ぶことは多い。今回のインタビューをきっかけに「子どもとの向き合い方」について、改めて考えさせられた。

(文:コータロー、写真:今井剛)