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自分が好きな人のためなら、なんぼでも力になりたい。

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。“難しい”だとか“堅い”というイメージから、思わず構えてしまいそうになる“士業”。今回は士業のひとつ、税理士をしている田中慎さんにスポットを当ててみよう。ひょっとしたら対局にいるんじゃなかろうかという、気持ちゆるめなクリエイターがお話を聞いてみた。

インタビュアー / 宮内 めぐみ

税理士法人田中経営会計事務所 代表 / 田中 慎
税理士・中小企業診断士。20代はひたすら資格勉強と向き合う暗黒の時代を過ごす。
現在は、大阪市内で事務スタッフ含む4名体制の事務所を構える。京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)でのコーディネーターも務めながら、財務・経営の専門家として中小企業や起業家、フリーランスへ、ITツールを活用した業務効率化支援をしている。

淡々と喋るその男は、意外にもラフだった

「宜しくお願いします。」

自身にフィットしたジャケットを羽織っている。きちんと感を怠らない空気を持ってその人は現れた。

今回のインタビュー相手は、いわゆる“士業”の世界の人だ。
私にとっては普段関わりがないだけに、ちょっとばかり堅そうなジャンル。自分の身に、ちょっとした緊張が走る。

インタビューを始めるやいなや、マル秘取材メモを興味深く覗き込んだ田中さん。恥ずかしさのあまり慌てて隠した私に、

「いやいや、なんで見せてくれへんの?(笑)そんなインタビューの仕方あるん?(笑)」

と“面倒見のいい兄さん”みたいなツッコミが返ってきた。
ひょっとしたら私の持っている士業イメージは間違っているのかもしれない。

潜り込んだ授業に紛れていた人生の変化点

大学では、経済学部を選択したそうだ。

「経済」と「経営」、一文字差の大きさに気づいたのは入学してからのこと。

「僕、当時あんまり経済と経営の違いわかってなくて、一緒かな〜って思って入学したら、全然ちゃうかったんですよ。マクロ経済とかね。アレレ?ちょっと思ってたんとちゃうなーって。ははは(笑)」

“思ってたんとちゃう”かった結果、田中さんは経営学を学べる商学部の授業に潜り込んだという。

まさか、潜り込んだ先に自身の人生を決定づける授業が待っていようとは思ってもみなかっただろう。

「とある商学部の授業でビジネスの面白さにハマってしまったんですよね。

実は小学校のときから大学に入る前まではずっと学校の先生に憧れていたんですが、大学でビジネスに興味が向いてからは全然教員について考えなくなっちゃいました。 ゼミは当然経済のことが研究テーマでしたが、卒論はバリバリ経営学の内容を書いて提出しました。先生には『よく書けてるけど、ごめん、経営学は俺わからんわ』って言われたしね(笑)」

会計を知らずして、おっちゃんおばちゃんは助けられない

大学の授業をきっかけに、経営コンサルタントを目指し始めた田中さん。

「地元には、おっちゃんおばちゃんの営む個人商店が並んだ小さな商店街があったんですが、大型スーパーが出来て、どんどんと潰れていきました。
大型スーパーは生活で活用していたけれど、これが増えた街は均一化・効率化された世界になっていく。それって面白くないなぁと思ったんですよね。
商店街のおっちゃんおばちゃんが好きだから、零細企業や、中小企業の支援をしたいと思ったのがコンサルタントを目指した理由です。」

だが、学びを重ねるほど、いわゆる“外資系コンサルタント”のような姿は自分とミスマッチだと感じ始める。

「20代前半の若造が経営者に対して理論を振りかざして『こうだ!』と言うコンサルは、なんかちょっと、それはちゃうなぁ、と。」

そんなふうに、冷静に考えていたという。

おっちゃんおばちゃんを助けたい田中さんは、会計の知識が必要不可欠であると考えた末に税理士としての道を歩み始めたのだった。 今では、経営相談に幅広く対応するべく、中小企業診断士として業務効率化や経営戦略の支援を行っている。

『支援する』の哲学と、たどり着いた道

「そういえば・・・」と田中さんはコーヒーを片手に切り出した。

「事あるごとに『自分は何の仕事をしているんだろう?』と考えたりするんですよね。
僕、税理士としての仕事だけが自分の仕事だとは思ってなくて。もともと経営コンサルタントもしたかったというのがあるので、今は京都市のソーシャルイノベーション研究所でも中小企業診断士として参加しています。」

お?何やら深い話がくる予感…。
田中さんの哲学にもう少し耳を傾けてみる。

「事あるごとに考えていたら、『支援』という一つのワードにたどり着いたんです。相手が何か一歩を踏み出す時に、まわりの環境を整えておくのが僕の使命。つまり僕の仕事は『支援』ということになるのだと。
背中を押すわけではないんですけど、何かをしようと思った時、360度どこへでも一歩を踏み出せるって良くないですか?」

・・・良い。非常に良いです。

「一寸先に濃い霧が広がっているのに、『アナタはコレが得意だからコレをやったらいいんだよ!』みたいに背中押す場面を見かけるんですが、あれはどうにも崖から突き落としてる気がしてて…。いやいやいや、それ以外の選択肢はないんかい!みたいな(笑)

実際、ビジネスや会計のことを全く勉強せず勢いだけで起業した末に、苦労をしている方を沢山見ています。
弱みだと思っていても、それが強みに逆転するときもある。だから背中を押すことを求められない限り、相手が何に向いているかは絶対言わないようにしているんです。

言うても僕、税務・会計の範囲が得意なだけですし。起業される方のほうがよっぽどポテンシャル高いですよ。
年齢が若い方も、僕をどんどん踏み台にしていってほしいと思います。」

「すみません。とりとめもなく話しちゃって。」と我に返った田中さん。
淡々とした空気の中に、冷めやらぬ熱い想いを感じさせたのだった。

なんぼ積まれようとも、「この人のためなら」と思えるか

田中さんは終始、「人が好き」という言葉を口にする。
肩肘張らないニュートラルなスタイルにたどり着いた背景には、駆け出しの頃のエピソードにあった。

「大学の同期たちが大企業に勤め、世界を飛び回って活躍する中、僕はひたすら資格取得のために勉強と向き合う20代でした。あれは、暗黒時代やったな…(笑)
29歳で税理士になって最初の頃は、必死になって経験を積まないと誰の役にも立てないだろうと思っていたので、誰と仕事をするかよりひたすら仕事をこなしました。『先生』なんて呼ばれていたことに違和感もなく。

だけど、どうにも反りが合わない人に当たったとき、『あれだけ必死に取った資格で俺は何をしてんねん。もっと好きな人のためにスキルを活かしたい』と思ったんです。」

“先生”と呼ばれていた税理士は、今やあちらこちらで“慎ちゃん”と呼ばれている。

「結局僕は、人が好きなんですよね。『この人のためだったらなんぼでも仕事するわ』と思うし、逆に『なんぼ金積まれてもやらへん』っていうのもあります。」

わかるわぁ〜。
と、深く頷いた私に、

「お、これはちょっと飲みにいかなあかんですね、ははは」

と裏表なくケラケラ笑う田中さん。 周りの人たちがこの人に一目置く意味が、なんとなくわかった気がする。

編集後記

「うわぁ相性悪いな…という人でも、いくらまで積まれたらさすがにお仕事しますか?」
人が好きなんだという田中さんに、こんな下世話な質問をしてみました。
だって世の中、綺麗事だけではやっていけない。

すると田中さんはまっすぐ、揺れない視線で即答してくれました。
「いや、そこはいくら積まれても動かないですね。人が好きだから、お金じゃないんです。やっぱりお互いに楽しくハッピーであることが一番じゃないですか。」

と言って数秒後、
「あ、いや、さすがに億積まれたら…ちょっと心揺れるかもなぁ(笑)」
と、訂正したのでした。

格好つけずに人間臭いことを言う。そんなところに周囲の方は惹かれるのだと思います。
さすがです、慎ちゃん。

(文:宮内めぐみ、写真:今井剛)

税理士法人 田中経営会計事務所
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