
「今あるものを、最後まで生かす」着物の始末からつなぐ、手仕事の力
インタビュアー / 大野 佳子
- アパレルデザイナー・コーディネーター / 平田 佳子
- 服飾業界で培った経験をもとに、「YORI」の屋号で着物を生かした手縫いのワークショップや商品づくりに取り組む。“今あるものを最後まで生かす”ものづくりを通じて、手仕事と人との新たな出会いをつないでいる。
繊維の現場で学んだ、ものづくりの原点
これまでのキャリアについて教えてください
大学進学を考えたとき、関心があったのは衣食住に関わることでした。特に興味を持ったのが「衣」の分野で、京都女子大学の被服学科(現・生活造形学科)に進学しました。在学中は、材料学を通じて繊維や素材の成り立ちについて学びました。
「繊維」と一言でいっても、その種類は多種多様です。私はその中でも天然繊維に惹かれ、綿を扱う紡績会社に新卒で入社しました。
配属先は営業職で、“糸売り、生地売り、服売り”と、幅広い繊維品の販売に携わりました。工場では、綿花から糸を紡ぎ、製品として仕上げるところまでを一貫して行っており、現場を通してものづくりを学ぶことができました。
そうした一方で、女性として働くことの難しさにも直面しました。
その頃は、男女雇用機会均等法が施行されて間もない時期で、能力があっても女性はアシスタントの立場からなかなか昇級できない。そんな現実が、まだ残っていました。私自身も上司から「女性が営業で食べていこうと思ったら、色々と捨てなあかんもんがある」と言われたこともあります。
女性の営業職なら、仕方のないことなのだろうか。そう自問自答を重ねる中で、「それならば、ものづくりや企画の仕事をしよう」と思い直し、上司に相談して製作部署へ異動しました。

製作の部署へ異動してからはいかがでしたか?
製作に携わるようになって目の当たりにしたのが、「生地不良」の問題です。どれだけ細心の注意を払っていても、生地不良はどうしても発生してしまいます。
そんなとき、当時の部長から「不良品でモノを作って売りに行け」と指示を受けました。デザイナーさんと協力しながら、“難あり生地”を組み合わせて新しい製品をつくりました。そうして生まれた製品を、毎月、大手衣料店へ販売しに行っていました。
そんな中、勤め先が倒産し、転職先では紳士用品の企画を担当しました。プライベートブランドの商品を企画し、会議に諮り、大手量販店へ販売する。その一連の流れに携わりました。
会社の工場は香港、台湾、インドネシア、中国など海外にもあり、ときには一人で現地へ向かわなければならないこともありました。右往左往しながらも、ものづくりの現場に深く関わり、奮闘する日々でした。
その後、退職し、フリーランスとして服飾製品の企画・販売、縫製仕様書の作成などを現在まで続けています。
“今あるもの”を生かし、伝えていく。YORIのはじまり
「YORI」を立ち上げたきっかけをお聞かせください
服飾業界に長く携わる中で、いくつかの疑問や課題が見えてきました。特に感じたのは「販売価格が安すぎること」「環境負荷が大きいこと」、そして「生産の実態が見えにくいこと」です。
現在の衣料品には、新品であっても一着数百円で販売されているものがあります。もちろん、そこには企業努力があります。けれど、生産にかかる手間や工程を考えると、本来それほど安価に販売することは、とても難しいのではないかと感じていました。
環境負荷の大きさも、見過ごせない課題でした。大量生産・大量廃棄の仕組みに加え、海外の工場を訪れた際には、染色排水の影響で池の色が赤く染まっている光景を目にしたこともありました。
こうした課題は産業構造の複雑さとも深く関わっており、簡単に解決できるものではありません。それでも、この現状に対して、自分に何ができるのか。その問いから生まれたのが、「YORI」でした。
YORIではどんな取り組みをされているのでしょうか?
「ヒト・モノ・コトを、糸を撚るように絡み合わせていきたい」
そんな思いを込めて、約5年前から「YORI」の屋号で活動を始めました。
当初は、アパレル商品の仕入れ販売をしていました。アップサイクルされたTシャツ、ヘンプ生地の靴下、ブドウやリンゴの皮からつくられた靴など、環境に配慮した商品を取り寄せていました。

これまで取り扱ってきたアイテム
けれど、販売を続けるうちに、私自身の中で考えが少しずつ変わっていきました。
環境に配慮した商品であっても、一から新しくつくられていることには変わりありません。それなら、すでに今あるものを生かす方がよいのではないか。
そう考えるようになったとき、目に留まったのが着物でした。
私は茶道を習っていることもあり、普段から着物を着る機会があります。同じ茶道教室に通う方たちも、それぞれに着物をお持ちです。特に上の世代の方々と接していると、「着物を着たい」という思いを大切にしながら過ごしてこられたのだと感じます。ところが、かつて大切にされてきた着物が、現代では驚くほど安く扱われてしまうこともあります。
「眠っている着物を、どうにか生かしたい」
そうして私は、“今あるもの”に目を向けはじめました。

着物に加工を施すなら、一番よいのは手縫いです。ミシンで縫うと針が削れたり、生地にシワが寄りやすくなったりして、負担がかかってしまいます。着物生地を生かすには、やはり手縫いが合います。
そこで、和裁教室とまではいかなくとも、手縫いを知り、体験してもらえる場をつくりたいと考え、3年前からワークショップを始めました。
このワークショップは、私が一方的に裁縫技術を教える場ではありません。集まった方の中に得意なことがあれば、その方が先生になってもいい。そんな気持ちで取り組んでいます。
参加してくださる方の平均年齢は70歳ほどです。「もったいない」を経験し、その感覚を自然に持っている世代の方たちです。一方で、この「もったいない」という感覚を、若い世代や子どもたちにどう伝えていけばいいのだろうとも感じています。
着物に限らず、衣類は家庭ごみとしても大量に捨てられています。「飽きたら捨てる」のではなく、「最後まで使いきってから手放す」。その始末の心を大切にしてほしい。そうした思いから、小さくても、今できることを少しずつ続けています。
「こうだったらいいのに」から生まれた、茶道のお稽古着
オリジナル商品「茶道のお稽古着」についてお聞かせください。
私自身が茶道を習う中で感じていた、「こうだったらいいのに」という思いを取り入れて、茶道のお稽古着をつくりました。
たとえば、従来のお稽古着は着丈が短いものが多いのですが、この製品はひざ下までの長さがあります。座るときに裾を整え、一息つく。そうした所作も、着物と同じようにできることを意識しました。また、懐中しているものが落ちにくいよう、細かな工夫も施しています。

茶道のお稽古着
発送の際にも、工夫されていることがあるそうですね。
Amazon内のショップ「KISSAKO」でご注文いただいた後は、Amazonの倉庫からではなく、必ず私の手元から発送しています。お客様とのつながりを大切にしたいという思いからです。
発送前には1枚ずつ検品を行い、手書きのお手紙と、生産経路を確認できるリストを添えてお届けしています。リストには生地の生産地、縫製場所、副資材、デザイナー名などが記載されています。誰が、どこで、どのようにつくったものなのかが見えることで、安心して長くご愛用いただけたらと思っています。

茶道教室でお一人が購入されると、同じ教室の方々が続いて購入してくださることもあります。実際に使っていただいたうえで、自然に広がっていくことが何よりうれしいです。海外の方からの購入もあり、茶道や日本文化に関心のある方にも届いているのだと感じています。
ONthe UMEDAは自分とは違う世界に出会える場所
どのようにONthe UMEDAを利用されていますか?
昨年、SNSで「ONthe BOX利用キャンペーン」の投稿を見かけたことが、ONthe UMEDAを知ったきっかけでした。それ以来、私自身もONthe BOXを利用させていただいています。
ONthe BOXでは、「茶道のお稽古着」も展示しています。写真だけでは伝わりにくい布の質感や手仕事の細やかさを、実際にお手に取って感じていただけたらうれしいです。
また、ONthe UMEDAで開催されるイベントにもいくつか参加しました。最近では「古典文学cafe」や「壁打ちナイト」などに参加し、特に「壁打ちナイト」では、ONthe UMEDA店長・中山さんからの返答があまりにも的確で、「はっ」と目が覚めるような瞬間がありました。
ONthe UMEDAを利用されている皆さんを見ていると、本当に多彩で、さまざまな方が集まっている場所だと感じます。普段の暮らしの中ではなかなか出会えないような方々も多く、自分とはまったく違う世界で活動されている姿に、刺激を受けることもあります。
そうした空間を通じて、自分の手仕事や活動を知っていただける機会があればうれしいです。いつかここで、手縫いのワークショップなどができても、きっと楽しいだろうなと思います。
世代を超えて、手仕事の力を伝えていく
これからの展望をお聞かせください
次の世代に「手仕事」をつないでいきたい。そんな思いから、来月には子ども向けのお裁縫ワークショップを初めて開催します。針や鋏は、子どもには危ないものだと感じられるかもしれません。けれど、扱い方をきちんと伝えたうえで、使う機会を持たせてみてほしいと思います。道具に触れ、自分の手でつくる時間を通じて、手仕事の楽しさを感じてもらえたらうれしいです。親子で参加していただく場合には、お子さんだけでなく、親御さんにもまた違う手仕事をご提案できればと考えています。
新しい取り組みとして、月に一度、マルシェで「繕いもの」の場を開くことも考えています。ボタン付けやズボンのゴム交換、裾上げなど、その場ですぐにできるものは、お客様にお待ちいただきながらお直しします。無農薬野菜などを販売されるお店の横で、丸椅子を二脚置いて、世間話をしながら手を動かす。そんな時間を通じて、ものを直して使うことや、手仕事の楽しさを身近に感じていただけたらと思っています。
今後は作家同士のつながりも育てていきたいです。取り組みに賛同してくださる方と出会いながら、少しずつ輪を広げていけたらと思います。つながりを増やし、世代を超えて、日本の文化や手仕事の持つ力を伝えていく。そんな場を、これからもつくっていきたいです。
編集後記
繕いものって、いいなあ。
平田さんのお話を聞きながら、そんなことをしみじみ感じました。
もう一度使えるようになった衣服には、新品のときとは違った愛着がわきますね。
「今日こそは!」と思いながら、ボタンが取れたままにしていた洋服を、私もそろそろ繕いたいと思います。
YORI 平田佳子さん
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(文:大野 佳子、写真:中山 雄治)







