『学びとつながり』でクオリティ・オブ・ライフの樹を育て、ウェルビーイングにつなげていく
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、パラレルキャリアでクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を推進する社団法人の代表理事となった、藤井慶文さんです。藤井さんが人生のテーマとする「学びとつながり」はどのように培われてきたのか、詳しくお話を伺いました。
インタビュアー / 知院 ゆじ
- 一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構 代表理事 / 藤井 慶文
- 学校法人職員などを経て大和団地株式会社へ。その後大和ハウスグループの大和リゾート株式会社へ入社、全国最年少でホテル総支配人となり、17年間で4カ所のホテルのGMを勤める。お客様相談室長の職についていた2019年に『一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構』を設立、クオリティ・オブ・ライフを高めてウェルビーイングにつなげる活動を精力的に行っている。
「私、めちゃめちゃ運がええんですわ!」
「今までの人生を振り返ってみると、私、めちゃめちゃ運がええんですわ!」
藤井さんは、満面の笑顔でこう話される。自分で「運がいい」と言い切れる方は、なかなか珍しいのではないか。いったい、藤井さんはどのような強運に恵まれてきたのだろうか。
ミュージカル劇団から学校職員、やがてホテルの支配人へ
藤井さんは、奈良県の生駒で生まれ育ったそうだ。
「小さな頃から自然が大好きで、時間があれば山や森で遊んでいる野生児でした。自然保護の父ジョンミューアを想い、将来は自然豊かな国立公園で働ける自然保護官(レンジャー)の仕事に就きたいと夢見ていましたね」
夢を叶えるべく森林系の大学を目指したが、受験に失敗し別の大学へ進学。自分の思う道に進めないとガックリきた藤井さんは、大学時代に意外なところを目指すことになる。
「ミュージカルに興味を持ちまして、オーディションを受けて本格的な劇団に入ったんですよ」
自然からミュージカルとは、なかなか振り幅の大きい進路変更だ。
「舞台に立たせてもらえるようになり、将来はミュージカルの道へ進もうと卒業後は就職しないつもりだったのですが、さすがに働かないわけにはいかない。そこで、休みが多そうだからと和裁の専門学校に職員として就職しました」
この選択が、藤井さんの人生を大きく左右する。
「最初は、学生募集のため1ヶ月分の着替えを持って車で全国行脚するのが私の仕事でした。程なく理事長から声がかかり、経営企画的な部署で学校以外の新規事業を手がけることになったんです」
学校法人の枠を越え、学習塾をはじめ居酒屋・魚の買い付け・手打ちうどんなどあらゆる業種を手がけようとする中で、ホテルを買い取り経営するという話が出た。
「当然ながら、ホテル業界なんて誰もまったく知らない。そこで、盛岡で赤字のホテルをブライダルによって黒字化したという、本になるような有名なホテルへ研修に出されました。研修から戻ってきたら、買い取った鳥取・大山のホテルへいきなり支配人として直行です。まだ昭和の時代、28歳のときでした。」
世間は、バブル景気で湧き始めた時代。夏はゴルフ、冬はスキーと、ホテルは大繁盛だったそうだ。
「大山での4年間は、大変な試練の毎日でした。人手不足もありホテルでは妻も一緒に手伝ってくれ、朝から晩まで働き詰めでした。1年間で10日も休んでいなかったと思います」
ある日、フラフラと走る藤井さんの車を後続車から見ていた奥さまから「このままではあなたの命が危うい」と言われ、退職を決意する。
「まだ若く体力があったので、何とかなっていたのでしょうね。一生懸命いろいろな仕事に取り組んだこの時期の体験が、将来的にさまざまなところで活きたのだと今になって思います」
捨てる神があれば、拾う神もある
退職後、アルバイト生活を経て次の職へ。
「私の好きな自然が多い環境で働きたいと、大和団地が経営するゴルフ場関連の会社へ、営業として就職しました。3年目で営業責任者になったのですが、4年目にバブル崩壊により会社そのものがなくなったんです」
しかしながら、捨てる神があれば拾う神はいるもの。その会社での働きを知る方が、上場企業である大和団地株式会社へ引き上げてくれた。
「そこでさらに、大和ハウス工業の観光事業部から『ホテルで働いていた経験があるのならホテル事業はどうだ』との話があり、ホテルを経営する大和リゾート株式会社へ行くことになりました」
大和リゾート株式会社ではメキメキと頭角を現し、全国最年少の総支配人として九州・唐津にあるホテルの黒字化を任される。
「唐津のホテルは市街地にあったので、これまでほとんど行われていなかったブライダルに注力しました。ブライダルは人生のライフイベントの中で、もっとも華やかな新郎新婦、ご家族にとってのハレの舞台です。お招きした方々に喜んでいただけるよう、地元の食材をふんだんに使った料理を提供したり、和裁学校での経験を活かして桂由美さんを招き和服でのシビルウェディングを提案したりと、さまざまな施策を練りました」
これが大きく当たり、唐津に在籍していた7年の間にブライダルの数は20倍近くまで膨れあがる。地域活性化にも貢献したいと、地域全体を巻き込んで『唐津呼子イカ検定』を始めたのもこの頃だ。しかし、うまくいっているときには落とし穴があるもの。ブライダルの予約も右肩上がりで入る絶好調のさなか、披露宴でノロウイルスによる食中毒を出してしまい総支配人から降格、他のホテルへ行くこととなる。
「すべてうまくいき伸びているタイミングでの食中毒でしたので、ダメージは大きかったですね。脇が甘かったと思います」
『学びとつながり』をライフワークにする
降格後に再度総支配人へ返り咲き、その後本社のブライダル事業責任者として着任して7年。『一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構』を立ち上げたのは、本社CS部長兼お客様相談室の責任者として勤務する2019年春(平成の最終年)のことだった。
「60歳のときに、1ヶ月の特別休暇を与えられました。せっかくなので『学びとつながり』をテーマとして過ごそうと、50項目のTODOリストを作成したんです。そのうちの一つが、一般社団法人設立でした」
一般社団法人の設立を目指したのはよいが、就業規則には副業禁止と明記されている。
「会社員時代はとにかく自分の強みを活かし、希少価値のあるレアな人財になろうと心掛けていました。65歳の定年退職まであと5年、そのままの役職でいるには常に自分磨きが求められます。そして何よりも、次のステージへ向かうためには自分自身のアップデートが必要でした」
経済学者のドラッカーはパラレルキャリアを推奨している、本業の傍ら非営利の活動をすれば人脈も広がるし本業にも活かせると、担当部署に副業の許可を求めて何度も掛け合う。
「最終的に、給料さえもらわなければよいという条件で、60歳からパラレルキャリアをスタートさせました」
自身の両親の生活を見てクオリティ・オブ・ライフ(以下QOLと表記)の大切さを感じ、事業のテーマとしたそうだ。
「健康寿命が終わってしまうと、生活の質が格段に下がってしまうものです。年老いた両親の生活を見ていて、QOLは人生にとって大切なことだと実感しました。自分と同様、親の介護や定年後の未来を考え出す50代以降の方を対象に、QOLを高める方法を伝えていきたいと考えて『一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構』設立に至りました」
『一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構』では、3つの社会課題解決を通じて、QOLの最適化を図っているという。
「健康寿命の延伸、資産や環境などの持続可能な生活基盤づくり、生きがいづくりの3つで、一人ひとりが世界に一つだけしかない『QOLの樹』を持っているという考えです。3つすべてをバランスよく高めて樹を育て、ウェルビーイング(心身の健康や幸福感、生活の質が良好である状態)につなげていくのが我々のミッションであり、私のライフワークでもあります」
学習習慣をつけてリテラシーを養ってほしい
現在、法人を運営する上で問題となっているのは、マネタイズの部分である。
「補助金に頼れば、単発のイベントは成功するかもしれません。しかし、持続的にやるには自らの収益事業を強くしていかないといけない。来期には7期目を迎えるにあたり、その基盤を作っていくのが、今の私の課題です」
収益の部分とQOLを高める目的で現在取り組んでいるのが『QOLフェロー検定※』と会員事業だ。
「QOLフェロー検定は、生活の中ですぐに役立つ、より良く生きるための知識を楽しく学べるきっかけとなるように作成しました。オンラインでいつでも受検でき、70点以上で合格となり認定証がもらえます。QOLとウェルビーイングに関する網羅的な設問としているので、受検することで幅広い知識が身につきます。唐津時代に作った『イカ検定』の経験が、ここで活用できました」
会員事業では、法人名の入った名刺の付与と、学習機会の手助けを実施する。
「会社勤めや公務員の方は、退職すると名刺がなくなります。たとえば参加したいコミュニティや交流会があったとして、あいさつするにも自己紹介するにもこれまで当たり前に渡していた名刺がないことで、参加しにくいと感じるかもしれません。私たちはQOLを高める一番の手立ては学びとつながりであり、好奇心であると考えています。また、学びとつながりを得るには、楽しいと思えることを自ら考えて行動するのが大切です。そこを手助けする意味で、名刺を作成して付与しています」
名刺には、全員の名前にあえて『フェロー』の肩書きをつけたそうだ。
「シニアの皆さんは、山あり谷ありの人生を歩んできた熟練者ばかりです。そういう方々が、これからも探求者として学び続けるために『フェロー』の肩書きをつけた名刺を持って、社会参加してもらいたいと考えています」
『QOLフェロー検定』の問題制作や、QOLの調査研究などの交流会への参加支援も、会員の特典となる。
「時代の変化に対応し、イノベーションを起こすためには、学習習慣を身につけることが大切だと考えています。検定問題を作るには、知識をインプットするための学習が必要です。シニアでも学習習慣を身につけてもらい、情報が氾濫している現代で正しい情報を見極めて活用する能力(リテラシー)を養ってもらうのが目的です」
ONtheは自分にとって第3の居場所
藤井さん自身も、学びとつながりを強く意識して行動している。
「学び直しをかねて、QOLに関係する資格を6個ほど取得しました。イノベーション施設で若い方々と交流して、スタートアップの支援もしています。イノベーション施設では、若い方が話しかけやすいように『シニアさん』と呼んでもらうようにしているんです」
ONtheの利用は平日の午前中と、イベント参加が中心だそうだ。
「梅田の一等地にあり利便性が抜群なので、非常に使いやすいと感じています。独習するときにはしっかりとプライベートの空間を確保できるのもいいですね。平日はほぼ毎日来ています。
また、数多くセミナーが開催されているのもONtheならではの魅力だと思います。これまでそれほど関心がなかった内容のセミナーでも、好奇心がムクムクと湧き上がり、できるだけ参加するようにしてきました。そうすると、本当にいろいろなジャンルの方とのつながりができます。これは非常にうれしいですし、ありがたいですね」
ONtheのコンセプトは、RNS(Real Network Space)。学びとつながりを人生のテーマとする藤井さんと、非常に相性がよいのだという。
「ONtheのコンセプトと私の価値観がつながっているのか、第3の居場所といえるほど非常に居心地よく感じています」
私の活動は『シニア社会の実験場』である
2025年に開催される大阪・関西万博にも参画している。
「大阪・関西万博に向けた活動として、QOLジャパン※というチーム名で行う『みんなで創るQOLフェロー検定1000問チャレンジ』という企画で、共創チャレンジプログラムに登録しています。大阪・関西万博の掲げるコンセプトは『未来社会の実験場』です。QOLからウェルビーイングにつなげる私の活動は『シニア社会の実験場』だと考えているので、万博との共通点が非常に多いと感じて申し込んだんです」
法人の体制強化も、今後の課題として取り組む。
「今はまだまだ発展途上の法人ですが、今後も、シニアの課題解決につながるような活動、楽しく学ぶためのボードゲームの制作など、やりたいことはたくさんあります。それを実現するためにも、マネタイズは欠かせません。多様な皆さんに会員として加わっていただき、自律した活動を楽しく行っていただくことができれば、これほど有り難いことはありません」
学びとつながりの継続には、レジリエンス(困難や逆境を乗り越えて適応する力)が非常に大切だと藤井さんはいう。
「たとえば病気や怪我をしても克服して回復する、ちょっとしんどいことがあって気が病んでしまうけれどまた立ち直るというように、人生は平坦な毎日ではないじゃないですか。そういった山あり谷ありの中でも人とつながっていくことが、レジリエンスを身につけるには十分な効果があるのではと考えています」
『人間万事塞翁が馬』を地で行くような人生を歩んでこられた藤井さんの言葉は重く、説得力に満ちている。
「私自身、打ちのめされてもうダメだとへこんでしまう経験もしてきました。そんな中でも、同じ方向を見ている仲間とのつながりや、すばらしい人たちとの出会いや学びがあって、私はここまで来られたのだと思っています。私は、めちゃめちゃ運がええんですわ」
編集後記
学びとつながりをテーマに人生を過ごしておられる藤井さん。プライベートではどのようなことに取り組まれているのか、興味本位で聞いてみました。
「大阪・関西万博のボランティアスタッフをすることになりました。161もの国が大阪に集まって、今までにない未来社会の実験場で、新しいテクノロジーや今まで見たことがないようなヘルスケアの分野などに触れられる。世界の人とつながる機会ができたのは、本当にうれしく思いますね。これまでの出会いといい、すべてに感謝です」
何とすばらしい行動力でしょうか。
「世界中の人たちとつながるために、今はAIの語学アプリで英会話を懸命に学んでいます。もう楽しみで仕方がないです」
学びとつながりを自ら実践され、ワクワクと話される藤井さんの姿は、本当にまぶしかったです。
※「QOLフェロー検定」「QOLジャパン」は、一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構によって商標登録されています
・藤井さんが代表理事を務める『一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構』のサイトはこちらです
一般社団法人クオリティ・オブ・ライフ推進機構(QOLジャパン)
・『QOLフェロー検定』のサイトはこちらです
Well-beingにつながる QOLフェロー検定