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変化していく「人」や「まち」の“今”を受け止め、“未来”へつなぐお手伝いがしたい

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、「キャリアコンサルタント」と「まち歩きガイド」という2つの顔を持つ春野 花(はるの はな)さん。春野さんが目指す「キャリアコンサルタント」像や、まち歩きの魅力についてお伺いしました。

インタビュアー / 鶴野 ふみ

キャリアコンサルタント / 春野 花
何も資格を持たない主婦が一念発起で社労士とキャリアコンサルタントの資格を取得。キャリアコンサルティングのワークショップを主催し、働く人のキャリア形成を支援している。また、趣味のまち歩きを活かし、地域の歴史や魅力を伝えるイベントも企画・運営するなど、幅広い分野で活躍中。

キャリアコンサルタントを目指した理由とは

ーー春野さんがキャリアコンサルタントになったいきさつ理由を教えてください。

30代後半、子供が高校生になったことをきっかけに、正社員として働きたいと思ったのですが、結婚してからは主婦一本でしたので、いざ履歴書を書こうとして、何も書けない自分に気づきました。

やりたい仕事が事務職なのに対して、事務経験すらなくて。

どうしようか、となった時に、とにかく資格が必要と考え、それからは資格試験を次々と受けました。とりあえず、事務職になれるよう簿記とかエクセルとか給与検定を受けて求職活動を始め、法律にも興味があったので、社会保険労務士という資格にも挑戦しました。これがもう大変で。ありがたいことに、実務経験を得ながら資格試験に合格もできましたが、気づけば就職してから、10年ほども経過してしまいました。

ーー充実した10年を過ごされたのですね。そのような専門資格をとろうと考えられるようになった背景にはどんなことがあったのでしょうか?

日々の中で感じてきたのが社会変化の激しさです。コロナ前後を思い浮かべていただければイメージしやすいかと思いますが、今まで会議は対面が当たり前だったのが、リモートでできるようになりましたし、そもそも会社に通勤する必要すらなくなってリモート勤務も当たり前になりつつあります。

このような大きな社会変化も影響しているのか、AI技術の進化も著しく、人不足問題は、外国人雇用だけにとどまらず、ロボットの活用範囲も広がっています。ただ「便利になる」「助かる」だけならありがたい話ですが、単純作業が働く人の手から離れるということは、その分、個人のスキルが試されるということです。

単純作業を効率よくこなすスキルの活用の場がなくなり、専門知識や技術を求められることとなったとき、果たして「どんとこい」といえる人はどれほどいるのでしょうか。

ーーこれからますます不安が大きくなりそうですね。

特に、これまでキャリアを積んできた中高年の方ほど、戸惑う機会は増えたように思います。何よりも、私自身が、そのような変化に対して不安な思いを抱えていました。自分自身の心に揺らぎがあったからこそ、キャリアコンサルタントの勉強をすることで何か変われるかもしれないと思い、養成講座へ通うことにしました。

キャリコンの養成講座では、様々な理論を学びましたが、「話しを聞いてもらえる」ことの大切さを知ったことは大きな発見でした。ただ聞いてもらう場の中で、話している自分自身が気づきを得て、さらに、その後、問いかけられることで深掘りする。この流れを体験し、対話によって自分を一つひとつ整理していく機会をあえて作ることにより、自分のありたい姿が見えてくることを学びました。

この学びは、自分が考えていた以上に大きく、キャリコンとしてキャリア支援に関わりたいと強く思うようになりました。

社労士として得てきた知識と経験を組み合わせながら、企業だけでなく、個人の働き方や生き方へのアプローチに役立てたいと思ったのがキャリアコンサルタントの資格を取得した理由です。
まだまだこれからになりますが、会社も社員も元気になるような、相互作用を生み出せるキャリコンを目指しています。

キャリアコンサルタントは「働く人の伴走者」

ーーキャリアコンサルタントとは、実際にはどのような仕事をするのでしょうか?

先ほどお話しした、社会変化に対応しきれない方の中には「もう辞めたい」とか「ここには自分の居場所はない」と感じるときもあると思います。だからといって、どうしたらいいのかわからない。

キャリアコンサルタントは、そんなキャリアの転換期に生じた、戸惑いやもやもやのお話を聞いて、「本当に自分がやりたいこと」を見つけるお手伝いをする専門家です。これはあくまで私の考えですが、キャリアコンサルタントができることは、問いかけから気付きを生み出すことだと思っています。

その気付きから、これから向かう未来の道筋を適切なアセスメント等を選択し、同意を得て活用しながら、探し当てていくお手伝い役。指導者的なものではなく、一緒に走る伴走者のような存在だと考えています。

ーー一人ひとりの強みを発見し、人生の決断を後方支援する。さまざまな資格や専門知識を活かして、これからどのようなことをしていきたいですか?

実は、まだ資格を取得したばかりで「これから」というところなんです。でも、やってみたいことはいろいろありますよ。

まずは、働いている方向けのワークショップをたくさん展開していこうと企画しています。

それとは別にキャリア教育コーディネーターという、学校や地域、企業をつなぐコーディネーターの資格にも挑戦しようと現在勉強中です。

キャリアコンサルタントとしてやりたいことの対象などは定めず、自分が支援者として関われる分野も拡げながら、積極的に様々な取り組みに関わっていきたいと、思っています。

キャリアコンサルタントに相談に来られる方はやはり、キャリアの転換期を迎えていらっしゃるので、社労士の勉強から得た保険制度の知識は役に立つことも多いです。育児、介護休業や退職も含め、法律で支えられている制度をきちんと伝えるだけでも大分安心してもらえますし、安心できると今まで見えていなかったこれからが見えてきたりもしますので。

せっかく持っている知識は存分に活かしながら、ご相談に来られた方のお役に立てたらいいなと思っています。

街を探索するように、人生も歩いてみよう

ーー春野さんは、まち歩きイベントの主催者という顔もお持ちですね。まち歩きに興味を持たれたきっかけは、どのようなものだったのですか。

まち歩きに興味を持ったのは、聖徳太子が建立した四天王寺がきっかけです。四天王寺さんには何度も行っているのに、境内にある沢山の建物の意味が分からなくて、なんかもったいないなぁ、と境内を歩きながら思っていたら、やたらと現代的な石塔が目に入りました。

「猫の門はこちら」と書いてあり、「へぇ、面白いなぁ」と立ち寄ってみたら、猫の門の下で野良猫がお昼寝をしていたんです(笑)。

でも猫の門は閉まっていて入れませんでした。さらに南へ進むと今度は虎の門が。さすがにリアルな虎はお昼寝してませんでしたが、門が開いていたのでそこから境内に入りました。

その日はただ見て見学するだけだったのですが、猫の門が閉まっていた理由が気になったので、帰ってから四天王寺さんのホームページ等で調べたところ、四天王寺さんの東に位置するその場所は聖徳太子をお祀りする聖霊院というお堂でした。

更に境内図の説明等を読み進めると、「ん?」と思う祠があります。それは物部守屋(もののべもりや)の祠でした。守屋の祠とは、聖徳太子に丁未の乱で敗れ、殺された物部守屋の霊をなぐさめるために建立されたものです。勝利者のお堂の横に一族を滅ぼされた物部守屋の祠を置いているという違和感は、ますます探究心をそそりました。

それでもう少し調べてみると、四天王寺の周りには「七宮」と呼ばれる四天王寺を守る七つのお宮がある。「面白いなー」と思ってさらに、調べていくと、行ってみたい場所が次々につながっていきました。世界がどんどん広がって、気づいたらまち歩きをするようになっていました。やっぱり、自分で歩くと発見も多くて、どんどんのめり込みました。

特に、大阪は日ごろ歩いている街並みに歴史がいっぱい詰まっていて、それが形としてちゃんと残っています。ふと目をおろせば、石碑があったり、神社があったり。この楽しさを独り占めするのはもったいない!ぜひ、都会の中にある歴史の面白さを知って欲しいと思って、ONtheでイベント企画するようになりました。

ーーまち歩きは、実際にどのようにするものなのですか。

わたしの場合、まち歩きのルートは神社を中心に決めます。神社を起点とするのは、そこに歴史の中で埋もれていった人々の思いや願いがあるからです。ご由緒を読むと、祀られている御祭神の変遷がわかったりして、それは、歴史の出来事とちゃんとリンクしているので、面白いですよ。

昔の人々が神社に込めた思いや、その土地の歴史を知ってまちを歩くと、普段は気にも止まらない坂道の高低差や通り沿いにある石塔の案内などに気が付きます。どんなに現代化・都市化されている中でも残っている土地の成り立ちの名残や、その場所に残してきた人々の「思い」に気づき、触れることができるのが、まち歩きの大きな魅力ですね。

ONtheは街も人生も見守ってくれる応援の場

ーー春野さんはまち歩きのイベントなど、ONtheをめいっぱい活用されておられますね。

ONtheを利用し始めたきっかけは勉強場所の確保のためです。当時、社労士の資格の勉強を自習室でしていました。通っていた自習室は飲食禁止。ちょっとでも音を立てればクレームが来るので、文字通り、息を飲むようにして勉強していました。

でもやっぱり、それはちょっと辛かったんですね。そんなとき、たまたまテレビ番組でONtheを知り、「これだ!」と思いました。

実際に行ってみたら、駅にも近いし、飲食も出来る。程よい物音や話し声が聞こえてくるのも居心地良かった。中には、わたしと同様に社労士の勉強をしている方を見かけることもありました。声はかけないけど「お互い頑張りましょう」って心の中で応援したりして、良い刺激をもらっていましたね。

梅田は平坦でまち歩きがしやすい場所で、ONtheから歩いて行ける距離に露天神社(お初天神)や綱敷天神社御旅社、第1ビルの屋上にある稲荷神社など、魅力的な場所がたくさんあります。でも、欲張りすぎて歩き過ぎることもしばしば。最近では、梅田周辺を散策した際の休憩場所としても活用しています。あとは、御朱印を集めるのも好きなのですが、御朱印帳に御朱印を貼ったりもしてます。家に持ち帰ると絶対やらないので(笑)。

今の思いを受け止めて、未来につなぐ

ーーこれからはどんな活動をしていきたいですか。

キャリアコンサルティングとまち歩き、一見共通点がないようですが、やっぱり共通点はあるなと感じています。

町歩きをして訪れる神社や町には、それぞれの土地ならではの歴史や由来や崇拝対象があって、それに翻弄されたり助けられたりしながら、災害を乗り越えたり、街を造成したり、その土地独自に生まれた文化があります。

また、キャリアコンサルタントとして向き合う方には、個々の歩んでこられた人生があって、迷い、悩み、都度分岐点に立たされながら、更にこれからを考える今の思いがある。
どちらにも共通するのが「思い」です。私は、どちらについても「思い」をしっかりと受け止めて、「これから」につないでいくための一助になる役割として関わりたいと考えています。

編集後記

「昔、パートで働いていたときに、『パートスタッフには有休はない』って言われたことに疑問を持ったのが、社労士を目指したきっかけなんです」とおっしゃった春野さん。

ちょっとした違和感をキャッチし、それを自分のなかでしっかり解消されているところに、温和な春野さんの中にある意思の強さを感じました。

まち歩きの話題になると、さらに表情が柔らかに。とても楽しそうに話してくださるので、まち歩きへの思いが伝わります。

日光東照宮を訪れた際に見た「眠り猫」の話しを春野さんにすると、四天王寺の「猫の門」と同じ「左甚五郎」という方の作品ということを教えていただきました。こんな共通点に時間も場所も越えて、とても興味が湧きました。これこそが、まち歩きの魅力なのかもしれませんね。

そんな春野さんの主催するイベントはこちら。

梅田を歩こう!(曽根崎~茶屋町編)

2024年9月29日(日)13:30 ~ 17:00(13:15受付開始)

ほっとするおしゃべり会~お互いに安心できるコミュニケーション~

2024年10月6日(日)14:00 ~ 15:00(13:45受付開始)