ワインで人生をより愉しく、より味わい深く
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、スペインのナチュラルワイン専門のインポーター&直営ショップ「ヴィノ・ルサファ」のオーナー 岡村 貴浩さん。岡村さんの原動力でもあるナチュラルワインの魅力や想いについて、詳しくお伺いしました。
インタビュアー / 鶴野 ふみ
- 「ヴィノ・ルサファ」代表 / TAKAこと岡村 貴浩
- 兵庫県出身。大学卒業後、大手メーカーに勤務し、ヨーロッパやアジアで海外駐在を経験。海外駐在中に世界中のワイナリー巡りを始め、訪れたワイナリーは世界各国に300以上。スペインのナチュラルワインに魅了され、インポーター兼ショップオーナーへと転身。スペインワインの魅力を伝えるべくさまざまなシーンで活躍中。
メーカー勤務からワインインポーターへ転身
ーー2023年8月尼崎・塚口にスペインのナチュラルワインのショップをオープンさせた岡村さん。ワインの魅力と出会ったのはおよそ20年前のことだそうです。
前職は日系企業の会社員でした。約25年間、サラリーマンとして働いていたんですよ。勤めていたのは精密機器メーカーで、海外との取引も多く、会社員時代のほぼ半分は海外赴任。オランダや中国、スペインでの赴任も経験しました。
ワインはもともと好きだったのですが、海外勤務の間にワイナリー巡りをするようになってさらにその魅力の虜に。ほぼ毎週末はどこかのワイナリーに足を運んでいましたね。そして、気がつけば訪れたワイナリーは300以上。アジア地域のワイナリーに足を運んだこともありますよ。
日本ベースの勤務の期間中はワインスクールに通って、知識を増やしていたのですが、深く知れば知るほど「いつかはワインに携わる仕事を」と思うようになってきましたね。
ーーワインへの情熱が増し、岡村さんは会社の早期退職制度を利用。メーカー勤務の会社員からワインのインポーター兼ショップオーナーへ大きくキャリアチェンジをします。そこに不安はなかったのでしょうか?
もともと「バリバリ全力で働くのは60歳までで、その後は新たなステージ」というイメージを持っていました。40代後半になった今は、60歳まであと10年とちょっと。改めて「どんな仕事に日々、自分のエネルギーやパッションを注ぎたいか?」と考えるとやはり「ワインだな」、と。
1年って、すごく早いじゃないですか。60歳はきっとすぐ。60歳までの時間を考えると、会社を辞めることに対する迷いや不安はありませんでした。もちろん貴重な経験をさせていただいたし、ありがたいことに引き留めの声もいただいたんですが、そこは揺らがなかったですね。
スペインのナチュラルワインの魅力をもっと多くの人へ
ーー店名にも使われる「ルサファ」はスペイン・バレンシアの地区の名前。その名にふさわしく、岡村さんが取り扱うワインはすべてスペイン産のものばかりです。
ワインと聞くと思い浮かぶのは日本ではフランスやイタリア。スペイン産のワインと聞いてもピンとこない人も多いかと思います。でも、スペインって実はワイン大国なんです。ワイン用のブドウが栽培されている面積もスペインが世界1位。スペイン各地にワイナリーがあるんですよ。
日本に入ってくるスペインワインは非常に限られているので、「スペインワイン=しっかりしたパワフルな赤ワイン」という印象の方が多いです。でも、広大なスペインはそれぞれの地域ごとに気候や土壌が大きく異なる。だから場所によってワインの味も種類も全然違います。さらに、それぞれの生産者が目指すワインもさまざま。スペインワインって本当にバラエティに富んでいるんですよ。
そんな魅力的で多様性のあるワインをもっと日本の人にも知ってもらいたい、というのがスペインのワインを取り扱う大きな理由のひとつですね。
ーー岡村さんが取り扱うワインのもうひとつの大きな特徴はすべてがナチュラルワインであるということです。
ナチュラルワインとは、ブドウの栽培から収穫後の醸造まで、ブドウ自身が持つ力を最大限生かし、人的な介入は最小限にして作るワインのこと。
20数年のワイン生活の中で、あらゆる種類のワインを飲んできました。それこそ誰もが知る有名で超高級品といわれるものからリーズナブルなものまで。それだけたくさん飲んできた中で、一番魅力を感じたのがナチュラルワインなんです。
最良の環境、生命力溢れる土壌、そこで栽培されるブドウ樹、そこに生きる様々な生き物や動物、一つの完全なエコシステムで育つブドウから愛情を込めて丁寧につくられるナチュラルワインは、果実の優しく穏やかな風味がきれいに表現されます。食事とも、とても合わせやすいのもナチュラルワインの大きな特徴ですね。洋食はもちろん、和食、中華、エスニック料理にも合わせやすいです。食事と合わせやすいというのはワインにとって大切なポイント。ワインの楽しみ方の幅がグッと広がりますからね。
うちのお客様の中には「二日酔いしにくい」や「あまりに飲みやすくて、やめていたワインライフを再開した」とおっしゃる方も多いです。中には「ここのワインしか飲めなくなってしまった」なんて方も。飲みやすさもナチュラルワインの魅力ですね。
魅力的なスペインの生産者と素敵な日本のお客様をつなげたい
ーー「ヴィノ・ルサファ」のHPやパンフレットにはワインの銘柄や味だけでなく、生産者の顔やワインに懸ける想いもしっかり紹介されています。
ナチュラルワインはなんだか感情に訴えかけるものがある叙情的なワインです。
ただ、ナチュラルワインって作るのがとても大変。畑では日々ブドウ樹に問いかけ、過酷な環境に向き合う必要があります。醸造過程では何が起こるかわかりません。薬や添加物などに頼らないナチュラルワインは、予期せぬ事が発生した場合、生産者が迅速に適切な対応しないと全てのワインがダメになってしまう事もありえます。
ナチュラルワインは通常のワインよりずっと経験・手間・時間・忍耐が必要なんです。
実際、スペインでナチュラルワインを作っているのは全体のワイナリーのわずか0.5%程度。たくさんのリスクと向き合いながらナチュラルワインを生産する人たちは強い想いを持ってワイン造りに取り組んでいます。ボトル一本一本に造り手の「思想」や「生き方」が詰まっているんです。
今、取引しているワイナリーは17社、54銘柄。すべて実際に妻とともに自らの足で訪れ、ワイン造りの様子を包み隠さず見せてもらいました。一人一人の生産者ともじっくり話し、ワインへの想いを聞いた上で取引をしています。これから先もずっと家族ぐるみでお付き合いしていきたいと思っている信頼できるワイナリーばかりです。
だからお客様にもそれぞれのワインが持つ「ストーリー」をしっかりお伝えしています。生産者がそのワインに込めた想いを知っていると、何気なく手に取ったワインが、より親しみと興味を持てる特別な一本になると思うんです。
ーー岡村さんの目標はお客様が「スペインのナチュラルワイン」をきっかけに新たな愉しみと出会うことだそう。
うちのお客様には、まずはワインのファンに、そして生産者のファンになっていただきたいな、と。そこからさらに、スペインにも興味を持ってもらえれば、とてもうれしいです。
ワインに限らずスペインは、長い歴史と豊かな文化を持つ魅力的な国。一本のワインが、スペインに興味を持つきっかけになったら最高じゃないですか?
もちろん、生産者の方も遠く離れた日本に自分のワインのファンがいることは大きな喜びになるはずです。
ワインを介して人と人を結び付け、そのワインを取り巻く全ての人の人生をより愉しく、より豊かにするお手伝いができれば、と思っています。
ロケーションの良さがONtheの大きな魅力
ーー岡村さんにとってONthe UMEDAの魅力は何なのでしょうか?
現在、生産者と日々のコミュニケーションを取りながら、平日はワインを持ってレストランや酒屋さんなど色々な業者へ、週末はワインショップというスタイルで働いています。
ONtheを最初に見つけたのは妻なんです。「いいところがあるよ」と教えてもらいました。
梅田は取引先のレストランへお伺いする際にもよく訪れる場所。カフェではない、落ち着いて仕事が出来るスペースをずっと探していました。だから、ONtheのロケーションの良さと充実した設備はとても魅力的でしたね。
取引先に行く前にちょっと準備したり、アポの合間に立ち寄って仕事をしたり、という風に活用させていただいています。
ワインの新たな価値を生み出したい
ーー現在、岡村さんはワインを軸にしたさまざまなイベントを企画し、多くの人にスペインワインの魅力を伝えようと奮闘中です。
いろんなイベントを行っているんですけど、うちのお客様、リピーター率がすごく高いんです。スペインワインの魅力を伝えられるイベントをもっとたくさんして、もっと満足していただきたいな、と思っています。
過去にはレストランさんとのペアリングイベントやタブラオ(フラメンコショーが楽しめる飲食店)とのコラボや、フラメンコギタリストの生演奏とのコラボ、スペイン風のフラワーアレンジメントとのコラボ、ワイン片手にプロのスタイリストからマンツーマンのファッションカウンセリングを受けるイベントなんかも。どれもとても好評だったんですよ。
今年の春にはスペインの生産者を呼んで、スペイン料理屋、お寿司屋などとのコラボイベントも予定しています。造り手の話しを直接聞けるのはめったにない機会なので、素敵なイベントになること間違いなしです。
スペインワインを介して人や興味、喜びが広がっていく様子に、毎日ワクワクしながら仕事しています。
僕にとってのナチュラルワインってなんだか、すごく高いエネルギーを持った生命体みたいな感じですね~。
ワインの持つ力に驚かされる日々です。
編集後記
岡村さんのお話から、スペインワインへの興味がむくむくと。取材後すぐに、お店へお伺いさせていただきました。お店では、スタッフの方がいろいろアドバイスをくださるし、手を出しやすい価格帯のワインも多く、ワイン初心者でも安心して楽しく過ごせました。
さらに、ナチュラルワインは岡村さんが心底惚れ込むのも納得の美味しさ。渋味が苦手で敬遠していたワインですが、「これなら飲める!」。
人生の愉しみが一つ増えてしまったかもしれません…
岡村さんのワインショップ「ヴィノルサファ」は今年の春からは取り扱うワインが約80銘柄にパワーアップするそう。ますます目が離せません。
「ヴィノルサファ」の最新情報はこちらから
Instagram https://www.instagram.com/vinorussafa/
(写真:今井 剛)