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自分らしい人生のために、会計のプロから経営のプロへ

インタビュアー / 鶴野 ふみ

株式会社インクロ 代表取締役 / 村田 明浩
公認会計士として、世界BIG4であるKPMGで6年間勤務したあと、起業し、株式会社インクロを設立。ビジネス設計コンサルティングやインバウンド事業、オンラインスクール、美容室経営や制作事業などさまざまな事業を幅広く展開している。

ラグビーのスカウトを辞退し、公認会計士に

――会社を複数経営する立場でありながら、公認会計士の資格も持つ村田さん。村田さんが公認会計士を志したのは、わずか15歳のとき。そのきっかけは何だったのでしょうか。

中学生のころはラグビーをしていました。かなり真剣に取り組んでいて、代表選抜にも選ばれました。そんなこともあって、卒業時には強豪校からスカウトも来ていたんですよ。

僕が中学生のころなので、今から20年くらい前ですね。当時はデフレ不況の真っ只中。中学生でも聞いたことのある大手企業の「リストラ断行」がニュースになっていたころです。

そんなニュースを日々目にしていると、自分の将来のことを考えるようになりました。そして「ラグビー選手としての寿命がきたときに、ただの会社員に戻るのでは、ビジネスマンとしての戦闘力は低い。自分1人でも戦っていける戦闘力を身につけないといけない」と思ったんです。

そこで、資格への挑戦を決意しました。僕は「やるなら徹底的に」というタイプなので、最難関だといわれている「三大国家資格」を目指そう、と。

「三大国家資格」の中で公認会計士を選んだのは、その先の選択肢が一番広そうだったから。さまざまな会社の経営を見られるのも面白そうだな、と思ったのも理由のひとつですね。

――「やるなら徹底的」な村田さんは晴れて公認会計士に。そして、世界BIG4であるKPMGに就職し、公認会計士として第一歩を踏み出します。

入社して痛感したのは「仕事の厳しさ」。これはかなりの衝撃でした。入社した瞬間から、プロの公認会計士なので「新人だから」みたいな言い訳は1ミリも通用しない。大手上場企業の役職者の方からも「先生」と呼ばれる立場だし、会社の看板を背負っているので中途半端なことは一切許されませんでした。

僕は負けず嫌いなところがあって、求められる以上のものを提供しようとするんです。そうなるともう、終わりが見えなくなって、寝る時間も休日もない。ずっと仕事をしているっていう状態でした。

――働き続けるうちに少しずつ、仕事への考え方に変化があったそうです。

公認会計士の仕事って会計監査や税務、コンサルティングと多岐にわたるんですが、いわゆるルーティン作業の量も尋常ではありません。

尊敬してるけど恐ろしく厳しい直属の上司にはよく、「常に自分にしか出来ないことに時間を使え。そうでないと、自分に価値はないと思え」と言われ続けて育ったので、そのうちこのルーティン作業に毎日数時間使っていることが耐えられなくなってきました。

 当初思っていた、いろんな経営に携われるという期待についても、今思えば当然ですが、大手上場企業の意思決定にダイレクトに関われる機会というのはそれほど多くはない。そういうこともあり、ちょっとずつ公認会計士として働くことに疑問を持つようになりました。

自分の力で勝負したい。さらに自分の価値を高めるために起業

――KPMGに6年間勤務し、退職。その後、株式会社インクロを設立します。公認会計士として安定した環境を飛び出すことに不安はなかったのでしょうか。

周りの人からはめっちゃ反対されました(笑)。「せっかく資格取ったのにどうして?」「もったいない」って。

会社での仕事に不満が出始めたタイミングでちょうど、自分の人生について振り返ることになる出来事もあったんです。「これから先、どんな人生にしたいか?」ということを突き詰めて考え、今、自分が求めているものは「もっと自信を持って自分らしくいられる道」だな、と。

そうなると、あのまま会社に居続けることはできなかった。選択肢は起業しか思いつきませんでした。その道のためなら、これから先の人生、別に公認会計士じゃなくてもいいかな、と思ったんです。だから不安はありませんでした。

今は公認会計士業自体はしてませんが、公認会計士として培った経験やスキルは全部使って経営してますからね。それで十分じゃないかな、と思っています。

――今は経営者として、公認会計士時代の経験を活かしつつ、さまざまな事業を行われています。

公認会計士として、上場企業から中小企業までさまざまな会社を見てきました。会社の成功にも失敗にもそれぞれ理由があります。公認会計士は数字のプロ。その理由を会社の数字から詳細に読み解くことができるスキルが身に付いたのは非常に大きい。

そもそも、成功する会社にはしっかりしたビジネス設計があります。ただ、勝てるビジネス設計を持っている会社は少ない。ビジネス設計がないということは正しい戦略がないということです。そのため終わることのない戦いにずっと挑み続け、疲れ果てていずれ負けてしまうんです。

だから日本では珍しいですが、株式会社インクロではビジネス設計を経営者の方と一緒に創り上げることをメイン事業としています。一からビジネス設計を立て、一人勝ちできる事業にしていきます。

また、自分に経営経験がないのに、経営に意見するのは僕的にNG。僕もさまざまな事業を経営しています。インバウンド事業、飲食店、アパレル企業、オンラインスクールやセミナー事業、美容室経営や経営者目線で売上に直結させるためのデザイン制作事業など多数の事業を実際に行ってきました。

――公認会計士のときとは違う、今の仕事だからこその魅力を感じるそうです。

今の仕事の魅力はそれぞれの事業のコア部分に携わることができ、その方達の人生が目に見えて変わること。

例えば、ビジネス設計なら、経営者の方と一緒にその会社を左右するような主軸部分に携わります。僕たちが提供しているものは「一時的に業績を上げる」ことを目的としたものではなく、もっと根本的に事業内容を見直して、「長期的に業績を上げ続ける」ための事業設計です。

全てが100%の成果を出せる訳ではありませんが、見違えるほどの業績向上に多々携わることが出来ています。経営者の方と苦楽を共にしながらさまざまな決断をし、利益向上に挑むのはやはり大きなやりがいです。

もちろん、その分責任も重くなりますが、これは公認会計士のときには味わえなかった経験ですね。

コワーキングスペースだけに収まらないのがONtheの魅力

――村田さんはONthe UMEDAがオープンした当初からその存在を知っていたそうです。

実はこの近所に住んでるんです。だから、集中してサクッと仕事を終わらせたいときなんかによく利用しています。

ほかにもいくつかのコワーキングスペースを利用するんですが、人とつながれる機会が多いのはONtheの特徴のひとつだと思います。

会社の経営者だと、がっつり仕事につながる、いわゆるビジネスの交流は積極的に作る機会があるんですが、仕事がメインではない緩いつながりがなかなかできなくなっていくんですね。ONtheはそういう肩ひじを張らないつながりが自然とできていく場所のように感じています。

最近、家に飾る絵画を探してたんですけど、ONtheに入った瞬間にギャラリーで素敵な絵を見つけて。そこから、その絵画展のコーディネーターの方とつながったこともあります。

そういう展示会みたいなイベントを頻繁にやっているのもONtheの魅力のひとつですよね。

完璧主義じゃなくていい。とりあえず行動してみる

――村田さんには仕事をする上で大切にしていることがあるといいます。

僕が仕事をする上で一番大切にしているのは自分や関わる人が成長し続けられるかどうか。だから常に「自分にしかできない仕事」であることに重きを置いています。

成長のためには、常に行動していることが大切です。語弊があるかもしれませんが、完璧主義を目指すと成長から遠のくと思っています。頭の中だけで「完璧」を目指して模索するのではなく、とりあえず実際に動いてみて、そこから「完璧」を目指す方がいい。完璧でなくても行動しながら改善していくことが成長につながると確信しています。

完璧じゃなくてもいいから、常に成長に向かって行動し続けていたいですね。その成長の先はきっと「自分らしくいられる道」につながっていると思うので。

編集後記

「変に聞こえるかも知れないですけど、自分の最期は家族や仲間から本当に惜しまれて迎えたいんです。そんな人生が理想です。」

自分の人生の最期まで理想のイメージがしっかりある村田さん。

さらに

「それってなかなかハードルが高いと思うんですよね。そのためには…」

とその理想へのステップもすでにしっかり考えている。

どの時点でも、「自分がどうありたいか、そのためにはどう行動すべきか」を念頭に置いて行動できる村田さんだからこその強さを感じました。

そんな強さがまぶしくてうらやましかったです。

いつまでも二人のお子さんの「かっこいいパパでいたい」という村田さんの夢は「実現、確実やな」とお話を伺いながら確信しました。

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(写真:今井 剛)