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農業・食・科学まで、すべての行動は「真理の探究」につながる

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、農福連携や農業の6次産業化などを幅広く手がける大野佳子さんです。大野さんの目指す「表現する真理探究者」とはどういった活動なのか、詳しくお話を伺いました。

インタビュアー / 知院 ゆじ

Eat&Health Lab. / 大野 佳子
大阪府出身。管理栄養士の資格を生かしながら、農福連携や農業の6次産業化に積極的に取り組む。ONtheでは、おいしいお菓子を囲みながら気軽に科学を学べる「サイエンス・カフェ」のイベントを定期的に開催する。

「自分は『普通の人間』だなと思って、これまで生きてきたんですよね」

屈託のない笑顔でそうおっしゃる大野さん。しかし、これまで手がけたことを伺ってみると”普通”の範疇からけっこう外れているのでは?と思うのは僕だけだろうか。

真理の探究は「食」からはじまった

高校を卒業後に近畿大学農学部へ進学し、管理栄養士を目指すところから、大野さんの『真理の探求』がはじまる。

「漠然と食関連を学びたいと思っていて。お菓子作りが好きだったのでパティシエにするか、国家資格の取れる大学にするか迷って、近畿大学へ決めました」

管理栄養士の資格を取得すべく進学したのだが、学ぶうちに自身のイメージと離れてしまったそうだ。

「勉強する中で『自分が臨床の現場で栄養指導をする』というイメージが描けませんでした。ちょうどその頃、中国産の冷凍餃子が社会問題になっていて。

卒業論文のテーマが残留農薬だったこともあり、安全な食とはどのようなものか、何を食べればよいのかなど、食の安全について深く考えるようになりました。それが、結果的に現在の仕事のベースになっています」

大学卒業後は公務員として一般行政職に就き、高齢障害福祉課へ。その後、行政栄養士として働くこととなる。

「栄養指導をする栄養士の側面だけでは、食に関する全体像が見られない。食べ物がどのように作られ、どうやって消費者の口に入り、健康を育んでいくのかといった全体の流れを知りたい、学びたいという気持ちがありました。そこで、公務員を辞めて農業をはじめたんです」

公務員から農業へ。大阪・箕面でオーガニック農業の法人が立ち上がったタイミングで生産者として関わることとなり、農業の6次産業化にも取り組んでいたそうだ。

「手塩にかけて農産物を作ったあとの出口も難しいんです。良いものができたからといっても、思い通りに売れるわけではないのがわかった。ちょうど家族の転勤のタイミングと重なったのもあって、いったん農業からは離れたんです」

棚田の保全活動で出会った「まこも」とは?

引っ越し先で食品衛生管理者の資格を生かした仕事に就いていたが、事情により再度大阪へ帰ってくることとなる。

「大阪では、これまでの経験が生かせる仕事を探しました。そのなかで、農福連携(障がい者が農業分野で活躍することを通じて、社会参画を実現する取り組み)をしている福祉事業所で『新しい商品を作るので手伝ってほしい』と声をかけていただき、お世話になることにしました。

それからはハチミツ・ハーブ・まこもなど、関わるすべてのプロダクトで6次産業化を目指して、あの手この手でお手伝いするようになったんです」

まこも?普段あまり耳にしない言葉である。

「イネ科の植物です。お世話になり師事していた方が棚田の保全活動をしているなかで、休耕田で栽培するには『まこも』がよいと聞いて、棚田保全に育てるようになりました。

お米より手間がかからないし、葉っぱはお茶、茎は食用になるので、コスパがいい。神事にも使うしクラフトもできるので、ファンが多い植物なんです。」

しかし、道半ばで恩師がとつぜん他界される。

「その方がいなくなったので、まこも栽培のプロジェクトが宙に浮いてしまいました。幸い、まこもを大切にされる方が多くて、新しい商品や取り組みが立ち上がっています。

『まこも部』(一年を通してまこもと触れ合い、まこもを身近に感じてもらいたいと発足させた活動)もそのひとつですね。縁脈がつながっていることを実感します」

これまでは、周囲と足並みをそろえて走り続けてきた大野さん。身の回りの変化を受けて、自分のやりたかったことに立ち返ってみる。

「これまでは、何をするにも周りに気をつかって動いてきた。でも実際は、学問を追究したり、モノを書いて表現をしていきたいという希望がある。

これまでの人生で表現したいネタはある程度作れたので、そろそろ自分の思う形で出してもいいかな、と。『表現する真理探究者』というカテゴリーで、自分がやりたいことを棚卸しして整理したんです」

本当に自分のしたかったこと、自分の軸とは何か。それを考えてはじめたうちのひとつが、ONtheで自主開催している『サイエンス・カフェ』のイベントだった。

科学を気軽に学べる場を提供したい

サイエンス・カフェは、人類が積み上げてきた英知を共有できる場、開かれた学問の場が気軽にあるといいな、と考えてはじめたそうだ。

「これまで携わった農業や産業を振り返ると、みんないいものを作っているがそれを味わい楽しめる場所がない。それらすべてを掛け合わせて、お菓子食べながらお茶の間で気軽に開けた学問の話を共有できる場があればいいな、と思ってはじめたんです」

サイエンス・カフェの内容は、大野さんがそのとき知りたいことを思いつきで取り上げるのだとか。

「科学は好きなのですが、実はちょっと苦手なんです。でも、苦手な方にこそ科学を知ってもらって、楽しんでもらいたいですね」

サイエンス・カフェ以外にも、ONtheを積極的に利用されているそうだ。

「家だと集中できないので、毎日のようにONtheへ来ています!

仕事でも勉強でも集中しやすいですし、梅田にあるので打ち合わせにも便利です。内装も都会的な雰囲気で、気分が上がりますよね。都会に憧れがあるもので(笑)」

やりたいことをあまり深く考えずにやってみる

これまでさまざまな形で『真理の探求』に取り組んでこられた大野さんだが、今後についてはどのようにお考えなのだろうか。

「自分の感じたものを寸分の狂いもなく表現したいと考えて、昨年からライターの仕事をはじめました」

現在は管理栄養士の資格を生かした執筆が中心だが、今後はサイエンスライターとしての活動をもくろんでいる。

「サイエンスライターとして、最先端の科学に取り組んでいる方へのインタビューがしたいです。今はまだ知識が足りないと感じているので、サイエンス・カフェで研鑽を積んでいる最中ですね。サイエンス・カフェで取り上げた内容も、テキスト化してシェアしたいと考えています」

これまでは、取り組みをすべて事業やビジネスにする前提で考えてきたとのこと。それゆえ、自分の行動に意味をつけすぎてしまい「なぜこんなことをしているのか、思っているのと違う」と自分を責めることも多かったそうだ。

「どこまでも緻密に、自分が『よっしゃ!』と思えるものを納得できる所まで表現・探求してみたい欲がある。意味を考えるのはやめて、自分がいいと思ったことは、すべてやってみる。やりたいことをあまり深く考えずにやるとどうなるか、その実験も兼ねています」

大野さんの理想は、24時間プライベートと仕事が一体化していてよくわからない生活だという。

「プライベートと仕事を切り分けないで、24時間が仕事であり趣味である感じで今後取り組んでいけたらという希望があります。理想探求型で現実のイメージとは少し違うのですが、それでも理想を追求することに意味があるのかな、と」

あくまでも軸足は「真理の探究」。これまで携わった食や農業に関しても、「食とはなにか」「農業とは」と深く突き詰めると、真理に到達すると考えていると話す。

「昔は、しんどいことがあっても死んだら解放されるし、死にも希望があると考えていた。でも、よくよく考えるとそれは違う。何が何でも生きてやるという考え方にシフトしたんです。その方がすべて楽しむ方向でやっていけると気づきました!

私自身、地に足をつけられずフラフラしているので、職人とか研究者とか何かを成し遂げる人に憧れがあるし、かっこいいと思う。これからは私もかっこよさを表現する人、真理を探求する人として生きていきたいですね」

興味のあるところへ無差別に手を出しているように見えるが、行き着く先はすべて真理の探究。今後は『表現する真理探究者』として”普通ではない普通”を展開し続けていくのだろう。

編集後記

サイエンス・カフェは、今後どのように展開していきたいか伺ってみました。

「サイエンス・カフェのイベントには、面白い研究をされている先生を呼んでみたいですね。成田悠輔さんのファンなんですけど、いつかそこまでつながらないかなと思っています」

おお!そのうちONtheで成田さんが見られるかも知れませんね!

「そして、サイエンス・カフェの裏テーマは『推しスイーツの会』なんです(笑)」

サイエンス・カフェでは「おいしいものをカフェでシェアしたい」とのもくろみもあるそうです。

「最近は和のお菓子にハマっていて。科学に思いをはせながら、あんこのお菓子をいただくとか、すごくよくないですか?」

すごくいいです!

少しでもサイエンス・カフェにご興味をもたれた方は、大野さんのFacebookまで!

(文:知院 ゆじ、写真:今井 剛)