3000名以上の足に触れてきた「足のプロ」が、パンプスのお悩みを鮮やかに解決
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、正しく・美しくパンプスを履くためのサロン・スクール経営をされている長谷川久美さんです。「後悔したくない」との思いから起業した長谷川さんの心境、そしてこれからの展望についてキラキラの笑顔と共にお話しいただきました。
インタビュアー / 安藤 鞠
- 合同会社Remage, Re Sole 代表 / 長谷川 久美
- 大阪府出身。英国式リフレクソロジーサロン勤務を経て、2015年に足と靴のトラブル改善サロン Re Sole(リ・ソール)を開業、パンプス選びや歩き方などのアドバイスを行う。さらにコロナ禍の2021年に合同会社Remageを立ち上げ、パンプスおよびパンプスの履き心地をアップするストラップを開発。
「死ぬとき後悔したくない」
タイトなライダースジャケットに、ふわっと広がるサテンのスカート、足下はワインレッドのパンプス。
一目でおしゃれを楽しんでいる心がダイレクトに伝わってきた。ヒールの高さは6.5cm、これは普段から履き慣れていないと歩きづらい高さだ。
「パンプスはね、履くのをやめてしまうと履きづらくなるんです。『子育てが一段落した今、昔のようにもう一度パンプスを履きたい!』そうおっしゃる方の声に後押しされるように、この仕事を始めました」
誰も気づかなかったニーズをくみ取り、足と靴のトラブルを改善するサロン開業の実を結んだ。思い起こせば、幼少時代から人の心の機微をとらえていたという。
「豊中で生まれ育ちました。当時の小学校は1学年18クラスもあるマンモス校で、引っ込み思案な性格でも友達はたくさん。人ってどんなときに嬉しく感じるのか、イヤだなって思うのか、クラスメイトたちの感情と行動を客観的に観察していました」
結婚して子どもを持った30代の頃、自宅の一部を使ってレッスンを開催する「サロネーゼ」が流行した。いつか私も、と夢を話すも夫は即座に却下。夢がモヤモヤにかわり、心を、そして身体を蝕(むしば)み始めた。胃カメラを何度も飲みながら、良き母・妻の役割を果たす――。あるとき、林真理子さんの言葉が目に飛び込んだ。
やった後悔はいつかかさぶたになって治る。
林真理子
でもやらなかった後悔は内出血のように
いつまでも疼(うず)いて治らない。
モヤモヤを押し込めていたカプセルが、心の中で大きくはじけた。「死ぬときに後悔したくない。失敗してもいいからチャレンジしよう!」43歳で念願の起業を果たした。しかも大波乱の幕開けで。起業直後に娘をつれて家を出ることとなったのだ。実母から「腹をくくってしっかりと働きなさい。絶対に大丈夫やから」と背中を押され、不安と迷いが吹っ切れた。
「たくさんの足に触れ、今の仕事につながりました」
サロン運営を夢見た頃にスタートしたリフレクソロジー(英国式足裏マッサージ)のセラピスト業、これが起業の基盤となる。セラピストとして経験を積むうちに、お客さんから病院に行くほどではない小さな不調について相談を受けることが増えてきた。
調べてみると巻き爪などの重い症状の専門治療はあるのに、根本改善を提案してくれる場所が当時の日本にはなかった。「自分で勉強するしかない」とDVD学習から始め、最終的には勉強会へ参加するため週末に東京を往復する生活になった。
勉強と実践を積み重ね、足のトラブルを改善するサロンを2015年に立ち上げた。さらにはピッタリのパンプスを選ぶ知識を身につける「シンデレラシューズ講座」や、「一緒にパンプスを選んで欲しい」という声から誕生した「靴の同行ショッピングサービス」も展開。講座には500名、同行ショッピングは300名の方と催行するほどの人気に。2021年には認定資格「パンプスフィットアドバイザー」のスクールを立ち上げる。これらは全て、ニーズから生まれたサービスだ。
「靴はメガネや枕と同じ半医半商(医療品としての性質も持つ商品)に属すると考えています。デザインだけで選ぶと、高い確率で足のトラブルを招きます。私が持っている足や靴についての正しい情報を、できるだけ多くの女性に伝えたいという思いで活動しています」
パンプスと足が一体化するストラップを開発
2020年にパンプスを圧倒的に履きやすくする「麗子のパンプスフィットストラップ」を開発した。どうしてもかかとが浮いてしまうパンプスだが、甲でストラップを固定すると足とパンプスが一体化し、前滑りを防いで履き心地が格段に良くなる。既に販売されているシューズバンドに比べ、効果だけでなくデザイン性もアップさせた。
「しかも、ここだけの話、足首でクロスさせるデザインはなぜか男性からの評価が高いんです」
しかしその後、コロナウイルスの感染が拡大するにつれて良い靴が市場から消え始めた。
「メーカーとしても、前年度の売れ残りを出すしかなかったのだと思います。お客様に勧められるパンプスがなくなり、本当に困ってしまいました」
そこで彼女は「自分で作る」という選択を取る。2022年に神戸の靴職人・櫻井啓子さんと、日本人女性の足にフィットする「麗子のパンプス」を開発。柔らかく上質の羊革を使い、外反母趾などで痛みが出やすい方でも快適に履けるハートカットのはき口、親指側のゆとり、かかとを包み込むホールド感を大切にした。もちろん大好評のストラップも採用している。
「麗子のパンプス」はクラウドファンディング「Makuake」で400万円を超える応援購入額を集めプロジェクトは大成功した。
70歳までヒールが履ける足に
長谷川さんはONtheを試着会やカウンセリングに利用している。
「以前はサロン用に物件を契約していましたが、いろいろな方と出会いたい、外に出たい気持ちが強くなってONtheを拠点にしました。お客様にとってもアクセスが良く、理想的な場所です。高い天井が気持ちが良いですし、目的に応じてさまざまなスペースを使い分けられるのが良いですね」
フィッティング中のお客様に、お話を伺えた。
「パンプスが大好きだったんですが、痛みが出て履けなくなってしまいました。けれどやっぱりもう一度履きたいなと思って、ようやくインターネットで見つけたのが『麗子のパンプス』だったんです。購入した初期の状態だと少し大きかったので、今日調整していただきました。ストラップのおかげで本当に履きやすくて、6.5cmのヒールが3cm程度にしか感じません」
一番多い感想が「ヒールの高さを感じない」だという。計算されたヒール位置によって見た目以上に安定感があるためだ。
「高いヒールなんて無理!とあきらめていた人にこそ一度試着をしてほしいパンプスです」
「足のトラブルで靴のおしゃれを諦めていた方が、再びパンプスを楽しめるようになった喜びの声や、足の痛みが軽減されて旅行に行けるようになったというお話を聞けたとき、この仕事をしていてよかったとやりがいを感じます。
ヒールを履き続けるには相応の筋力やバランス感覚が求められますし、きれいな靴はおしゃれして出かけるモチベーションをあげてくれます。今話題のフレイル(加齢により心身が老い衰える状態)予防にもなると実感しています」
今後もたくさんのアイデアがリリースを控えているという。
「客室乗務員と考えた『働く女性のオンとオフのパンプスを格上げするストラップ』を3月上旬にクラウドファンディングで公開予定です。パンプスを避けがちな30〜40代の方にもパンプスの良さを知ってもらいたくて開発しました。幅を1cm細くして、ローヒールにも合うかわいらしいストラップに仕上がりました。
お手持ちのパンプスが足に合うか『パンプス診断』も行っています。商品を無理に勧めることはしません。私のミッションはあくまでも、『70歳までヒールが履ける足』を保ってもらう活動です」
同時に、43歳からのスタートでも経営者として活躍できた経験も伝えたいと、「おひとり様起業家のWebプランニング」も手がける。
「かつての私のように、モヤモヤと後悔し続ける人を一人でも減らしたいんです。『信ずれば成り、憂えれば崩れる』(起こること全てに意味があり、明るく生きていたら必ず幸せになる)を座右の銘に、一度きりの人生を楽しみます!」
編集後記
スッと伸びた背筋に合わせたエレガントなパンプス、長谷川さんからは「生きる自信」にみなぎった美しいオーラが放たれていた。現在は、成人式を迎えた娘さんと元夫、そして義理の両親を含めみなさん円満な関係だという。新しい家族像も「今」を感じさせてくれた。
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(文:安藤 鞠、写真:今井 剛)