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教育格差をなくしたい。日本中にハイレベルな学びを届ける。
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話をうかがったのは京都大学医学部を卒業し、医学部に特化したオンライン予備校を立ちあげた田代孝治さん。自分のやり方を押し付けず、生徒の自主性をはぐくむ指導法は、子育てや部下を育成する方のヒントにもなりそうです
インタビュアー / 安藤 鞠
- オンライン医学部予備校講師 / 田代 孝治
- 2013年京都大学医学部医学科卒業。元医学部生のバックグラウンドを生かし、医学部専門の予備校教師として活躍。2020年にオンライン予備校を立ち上げ、日本中の受験生を合格へ導く。福岡県福岡市出身。
考えの違いを理解して、一人ひとりにていねいに向き合う指導
――フリーで立ちあげられたオンライン予備校ですが、どのように運営されているのですか? 家庭教師のように、1対1で対面、あるいはオンラインで指導しています。来てくれる生徒さんは、大手の予備校や独学で成績が伸び悩み、インターネットで検索して私のホームページにたどり着いてくれるケースが多いです。「自分で何とかしよう」という意思がある生徒さんなので、皆さん良い結果を出されます。 今は対面で3名、オンラインで3名を受け持っています。大手の予備校とは異なり、1人1人にていねいに向き合うので、わずか6名でもプレッシャーを強く感じますし、その点がやりがいともいえます。 ――1対1でていねいに指導されているのですね。生徒さんの関係性を上手く保つ秘訣はありますか? 個別指導なので、人間関係は信頼に大きく影響します。そのため、生徒とは適切な距離を保つように心がけています。友達のような親しすぎる関係はもちろん避けますが、絶対的な教師としてふるまうこともありません。 生徒であっても1人の人間として尊重しているからです。例えば、問題の解き方が間違えていても、まずはどうしてそのように解いたのか、生徒さんの考え方を理解するように心がけています。 ――いきなり講師の考えの枠にはめるのではなく、生徒さんの考え方を理解するステップを踏むのですね。 そうなんです、生徒さんには生徒さんの思考があります。そこをくみ取ってあげないと、いくら指導しても生徒さんは腑に落ちず、やがては信頼関係にも影響します。 講師は今までの経験から、設問に隠れているルールを見つけ、論理だてて答えを導き出せます。反対に経験や知識の浅い生徒は、少ない情報の中から共通点を見つけて答えを出します。答えの出し方が正反対なのです。 生徒さんとギャップが生じないよう、2つの考え方の違いを理解して「経験や知識を押しつけない」ことに最も気をつけて指導しています。 ――これは部下の指導でお悩みの方にも参考になりそうです。田代さんは初めからこのような教え方ができていたのでしょうか。 いえいえ、アルバイト時代は「なんで分かってくれないんだ」とフラストレーションを感じていました。自分自身も経験を積んで、反省し、指導方法をトライ&エラーしながらここまでやってきたのです。
勉強嫌いだったからこそ知れた世界
――勉強は小さいころから得意でしたか? 実は、勉強は嫌いなんです。特に、大量の暗記作業は苦手です。じっくりと分析して、自分なりにかみ砕いてからまとめることは好きでした。分析するためには、まず全体像を知る必要があります。 そのため、①入門書を1冊購入、②意味が分からなくても通して読む、③学ぶ世界全体について理解、④分かりにくいところをしっかり勉強する、というテクニックを自然に習得しました。 この勉強法だと、ひとつひとつ理解してから次に進む方法より、ずっと効率いいんです。 ――高校時代ですでに自分が学びやすい方法を習得されたのですね。そうして入学された京都大学医学部について教えてください。 入学してみると、模試で毎回上位にランキングしている人がゴロゴロいました(笑)。科学雑誌に写真が掲載されていた先生を学内で見かけて、「あの先生だ! 」と興奮したことも覚えています。 学部生のころから研究室に出入りする人も結構いましたし、外科志望の人は体育会系のクラブで体力をつけていました。 京都大学は、世界最先端の研究に「当事者」として関われるし、逆にぼんやりと過ごせばほとんど何も得ることなく終わってしまう、そんな空間です。大学側から「勉強しろ」と言われたことはありません。 自由で放任な学風の京都大学だから、講師になれたのかもしれません。起業したクラスメイトも他に数人いました。 ――印象深かった授業はありますか? 山中伸弥先生や故・日野原重明先生(*)といった、第一線で活躍されている方の講義を聞けたことは貴重な経験として心に残っています。どうやら私は、学問よりも「その人がどのように考えて、どのように生きたか」といったことに興味を持つようです。
(*: 聖路加国際病院名誉院長 100歳を超えても現役で医療に携わった)
生徒さんの夢を1年で実現する伴走者として
――卒業後、そのまま医師になることは考えなかったのですか? 当初は遺伝病の研究医を志していました。しかし、研究分野で目覚ましい活躍をされている先生方について知れば知るほど、「自分には不向きなのでは」と考えずにはいられませんでした。 研究者は、ルーティンワークに対しても粘り強く取り組める素質がとても大切です。研究の過程はいっときの精神論ではとても続けられないほど、地味で地道なものです。私には、長期の定型業務から新しい発見をする適性が不足していると感じました。 ――適性を冷静に判断して、医師ではなく講師の道を選ばれたのですね。 はい。それに予備校講師も生徒さんの一生に大きく影響を与える仕事ですし、責任が重大な点は似ていると感じます。異なるのは、結果が1年で得られて改善点を翌年の生徒さんにすぐ実行できる点です。 このスピード感が、自分にはとてもあっています。また、生徒さんが夢をかなえるために頑張る姿もモチベーションにつながっています。 生徒さんが活躍する将来をひっそりと夢見ているんです。
講師・生徒の両方にメリット大の ONthe UMEDA
――ONthe UMEDAを利用されたきっかけは? オンライン予備校を本格的に立ちあげる際に、ネットで検索してONthe UMEDAを知りました。アクセスや設備が理想通りだったので、即会員になったんです。 授業は個室ではなく、オープンスペースで行っています。オンラインの生徒さんからも、騒音などについてクレームはありません。使い勝手が良すぎて、今では毎日利用しています。 ――そこまでヘビーユースできる魅力は何でしょう。 ストレスを感じることなく、自分のペースで仕事をできます。また、貸し会議室だと事前予約が必要ですけれど、ONthe はいつでも利用できる点がとても助かっています。 アクセスも抜群で、雨の日もぬれずに来れますよね。生徒さんの負担も軽いと思います。 それにさまざまな職種の方がいらっしゃって、好奇心を刺激されます。今は指導につきっきりで手一杯ですが、時間に余裕が生まれたら、ぜひみなさんと交流できればと思います。 ――普通の予備校に比べると、ONthe UMEDAは開放感がありますね。 ストレスがたまりやすい受験生も、いい気分転換になっているのでないでしょうか。 個人的には、フリーのドリンクバーが特に気に入ってます。アイスカフェオレが大好きなんですけれど、カロリーが気になるからごほうびとして飲んでいます(笑)。
教育格差をなくして、日本中どこからも医師・研究者を目指せるように
――これから、どのような未来を描いていますか。 今は1人ですべての生徒さんを見ていますが、ゆくゆくは信頼できる先生に入ってもらって、事業を拡大したいと考えています。というのも、私には教育格差をなくしたいという夢があるんです。受験業界は今まで大都市に偏っていて、地方に住む高校生には十分な機会がありませんでした。 オンラインなら場所を問わず、ハイレベルな教育を届けることが可能です。住む場所を問わず医師・研究者への道を歩めるように、教育インフラとしてオンライン予備校を拡充させたいです。 【Webサイト】オンライン医学部予備校
編集後記
緊急事態宣言が明けて初めての週末。見事な秋晴れのもと、ひさしぶりの対面インタビューにさびついた知的好奇心を刺激されました。 「生徒には冷たい先生って思われているかも」とこぼす田代さん。けれども精神的に参ってしまった生徒さんに付き添って、一緒に入試会場まで行ったこともあるそう。 生徒さんの気持ちに寄り添い、絶妙な距離感を大切にされているようすが伝わって温かい気持ちになりました。 「勉強も指導も、大局観が大切です。重大な影響がないなら、見守ります」 超一流の頭脳と秘めた愛情をもって、教育格差に挑む田代さんにエールを。
(文:安藤 鞠、写真:今井 剛)