満たされない自分がいるからこそ、アップデートし続ける。
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回はONthe UMEDAのインテリア設計デザインを担当された株式会社ワサビ代表の笹岡 周平さん。
どんなに達成感のある空間を作り上げても、どこか満たされない自分がいる。その答えにたどり着くまで日々アップデートし続ける。その姿勢にはとても多くの学びがありました。
インタビュアー / 中瀬 芳邦
- 株式会社ワサビ代表取締役 / 笹岡 周平
- インテリアデザイナー
1978年高知生まれ。大阪工業大学工学部建築学科卒業。
2001年株式会社インフィクス入社。間宮吉彦氏のもとで飲食店やブティック、各種専門店、 住宅などの設計・監理を担当。2006年6月同社を退職。
2007年5月株式会社ワサビ設立、現在に至る。
心を整える空間
都会の喧騒に包まれインターネット上の情報も錯綜する中、立ち止まろうにも日々は忙しく過ぎてゆくばかり。そんな暮らしの中でも時には自分を見つめ直し、振り返る時間というのは大切なことではないでしょうか。
今回のインタビューで笹岡さんはインテリア設計デザインというご職業柄、「場所」や「空間」といった独自の視点で心を整えることについて聞くことができました。
それはインタビューの中で、もし何の注文も受けずに自由にやらせてもらえるなら、どういう設計デザインをしてみたいですか?という質問から始まりました。
1人で何かをするとか1人というテーマが自分の中にあって、例えば1人の音楽家と1人の観客のための空間とか、海が見える崖地にバーカウンターもなくポツンとソファだけある広いバーとか。そういう空間を求めてくれるお客様がいれば作ってみたいと思っています。
ピアノの演奏を聴くのが好きで高木 正勝さんという好きな音楽家の方がいるんですけど、 1人の為に弾いて欲しくて。ずっと聴いていたいから。でも対面はしていなくてもよくて、例えば空間がねじれていて、どこからか聴こえてくるみたいな。そこに居るんだろうな、という気配だけは感じるという一見変な空間を作ってみたくて。
− それは1人になれる場所ということでしょうか?
自分と向き合える場所ですかね。そこで過ごした時になにか変われたとか、ホッとしたとか。 静かで穏やかで、例えばお寺で座禅を組むイメージですかね。海の見える崖だけじゃなく、森でもいいし山でもいいんですが。
小説の好きな一節がありまして、原 民喜という作家の「沙漠の花」という作品なんですが、僕も要はこういう空間を作りたいと思っています。
明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐる文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる。だが結局、文体はそれをつくりだす心の反映でしかないのだらう。
「沙漠の花」原 民喜
− 静けさとか自分と向き合う空間というお話を聞いていると、僕の地元の石川県の金沢にある鈴木大拙館とか香川の豊島美術館とかが浮かびます。
そこは大好きですね。1日1回そこに入りたいですもんね。近くに欲しいくらい。自分を整えたいですね。日々忙しくしているからだと思うんですけど。
− なぜそういう空間を作りたいと思われたのでしょうか?
先ほどの1人の音楽家と1人の観客のための空間というのも20代の頃から温めているアイデアなんですけど。面白く仕事をしてきて独立もして、周りからは順風満帆だねってよく言われるんですけど、未だに満たされない自分もいて。仕事上は喜んでもらえたりして嬉しいんですけど、なにか違うベクトルで満たされていないというか。
− 仕事上で満たされることはないと。
そうそう、だから若いスタッフに仕事を持っていってもらってもいいと思ってるんです。そうすると自分の仕事がなくなるから、その空間を作るしかないし。それがお金にならなくても。表現するしかないので。それはアーティストになるという事なのかわからないですけど。
それが夢なのかな。50,60代くらいの。子供が大きくなるまではもう少し我慢しますけど。
− ぜひ見てみたいです。
見せれるように頑張ります。頑張ったら駄目なのかもしれないですけど。
整えることを追求し続ける
自分を整えるということを大切にされ、果てはその空間を自ら作ってみたいと追求する。その探究心は普段の仕事の中でも意見や情報を整えるという作業で活かされているそうです。
ステークホルダーが多い物件ほど様々な意見が出てくるので、いかに整理して解決へ導いて、同じベクトルへ向けていけるかは仕事をスムーズに進める上で大切にしています。
− 情報の整理について具体的に教えてもらえますか?
業務の効率化が好きなんですが、要は二度手間が嫌いなんですよ。その件は前にメールしましたよねというような事が。だからそうならないような仕組みを作るんですよ。
例えばChatWorkとかでグループを作るじゃないですか、ChatWorkはそこに皆が見れる概要欄があるのでGoogleドライブとかのリンクを貼っておくんですよ。バスの時刻表とかも。
− バスの時刻表ですか?
施工中の物件に行くのにバスの時間とかを調べる手間を省くというか。2回同じことをするのを防ぐ。バスの時間を調べるのに普通は検索からするじゃないですか。そこをワンクリックでいきたいので。
− そこまでとは驚きました。
工数をいかに減らすか、お客様も含めて時間を無駄にしないために。考える時間だったらどれだけ取ってもいいじゃないですか。けど削れるものは削った方がいいから、そこの整理は努力してますね。
− そういった考え方はどこで培われたものなのでしょう?
どうなんでしょうね、情報の整理術とかは興味があるので常にアップデートしている感じではありますね。そういうツールがあれば試してみたりとか、本を読んだりとか。
− 常にインプットされているんですね。
勉強は好きですね。それで決算書を読めるようにしたりとか。
− 決算書をですか?
デザイナーには必要がないと言われるかもしれないですけど、僕はそこに違和感があって。経営とか事業について昔から考えるのが好きだったので、事業性をちゃんと担保した仕事をしたいなと思っていたんです。なのでその点についても経営者の方と話をできるように。
せっかく頑張って作ったのに、数ヶ月後になくなるお店とか作りたくないじゃないですか。
インテリアデザイン業界に入ったきっかけ
− そんな笹岡さんがインテリアデザインを志されたキッカケについて伺いたいと思うのですが。
そうですね、大学時代は就職をしたくなくてずっと遊んでたんですよ。でも3回生くらいになって、このままじゃヤバいと思い始めて本気で設計の勉強をしだして、そしたらもう少し勉強をしたくなったんですよ。それで卒業をした後に実は半年だけ専門学校に通ってたんですね。
− どちらの専門学校に?
今もあるのかわからないですけど、万博記念公園にインターメディウム研究所という所があって。グラフィックから建築、アートなんかを串刺しで教えるような感じで、アーティストの方が講師だったり。面白そうだったんで行ってたんですけど、ちょっと気持ちが中途半端だったからか、芸術系の人が多いコミュニティに入っていけなかったんです。で、学校と並行して実務も学ばないとなと思って株式会社インフィクスという会社でインターンを始めたんですね。それで半年ほど経った時に学校はあまり馴染まなかったけど、インターンで従事していたインテリアは面白くなってきたと。
– 最初からインテリアデザインを志望されていたんですか?
いや建築学科だった事もあり元々は建築を志望してて。それも父が建築が好きで中学生くらいの時に安藤忠雄さんの建築とかを見に連れて行ってもらってたんですよ。
− 僕も大人になってからですけど、安藤忠雄さんの光の教会とか地中美術館とかは見に行きました。
そうそう、そういう凄い建築とかなんで子供ながらにビックリするじゃないですか。それで単純に建築家になるって言ってたんですけど。たまたま友達がアルバイトを辞めると、そして誰か替わりの人を探してるって言ってて。それで連れて行ってもらったのが内装・店舗設計を手がけている株式会社インフィクスという会社でした。
インテリアデザインという業界があると知ったのもその時ですね。なのでその友達が替わりの人を探していなかったら、この仕事はしていなかったと思います。
− なるほど、そこは運命というか偶然の巡り合わせだったんですね。それでインテリアデザインというものを始めてみて、実際どうでしたか?
それまで自分が行っていた服屋さんとか眼鏡屋さんとかのお店という場所を作る方に回ったので、お店ってこういう風にできるんだとか身近に感じて、面白いなと思って、そこからはもう入社させてほしいという感じで。
− そこで設計デザインを学ばれていったと。何年くらい?
そうですね、5年くらい在籍して何十店舗と。飲食店からアパレル、雑貨屋さんからクリニックもやりましたし、結婚式場からなんやかんやと色んな業種を。
長く続くお店を作る
− 今までやってこられた中で一番嬉しかった事とか、感触を得たような出来事とかありましたか?
アップデートされたなって思う瞬間ですかね。年に一回くらいあるんですが。今まで出来なかったことが出来るようになったりとか。これはすごくハードルが高いなというような時があって。
− 今でもありますか?
もちろんあります。一昨年くらいにGINZA SIXという施設の中にあるお店を作った時には、すごく要件が厳しくて設計期間が短くて大変だったんですけど、それをやり切った時にはワンランクアップしたなという感触があって。
たまにそういうタイミングがありますね。なので無かった知識をがんばって調べて、そこに度胸を乗っけてプレゼンできたとか、そういう積み重ねですね。
− 今でも出来る範囲の中でこなすのではなくて、成長していきたいという想いの中でやられていると。
その案件を僕がやる意味とか、かつ成長できるポイントがあるかということを見極めて見つけるようにはしています。
− 大切にされている信念や理念などはございますか?
任せてもらったお店が続くことですかね。どの案件の時にも提示しているビジョンが4つあるんですけど、
- 私たちは、空間の持続可能性を考え、環境にかかる負荷を減らします。
- 私たちは、古くから受け継がれてきた価値ある空間を利活用し、後世に残します。
- 私たちは、顧客の事業の継続性に寄与します。
- 私たちは、問いを立て続けます。
4つの中でも1つは大き過ぎて持続可能性とか言っているんですが、要はお店がすぐに潰れなかったら使った材料とかが長く生きるわけじゃないですか。ポンポン変えてしまったら環境負荷が高まってしまうので、長く続く店を作ろうという信念でやっていますね。
− それでは最後にこの設計デザインを担当されたONthe UMEDAに込められた想いなどお聞かせいただけますか?
ここには悩んでいる人が来たらいいなと思っていまして。そして今のこの場もそうですけど、話して共感してもらえたら嬉しいじゃないですか。仲間を見つけられる場所になったらいいなと。
なので迷ったら来たらいいんじゃないかと思ってて、ONthe BARとかでスタッフの人に話を聞いてもらって何かのヒントになればいいし、仕事にも繋がるかもしれないし。
− ありがとうございました。
編集後記
目標を達成して次のさらなる目標がとくに無ければ、そこで満足してしまう。そうではなく、どう達成すればいいのかもわかならい夢や野望ともとれる目標を1つ据える。手探りでそこへ近づくために模索し回り道をしながら進んでいく。結果としてそれが成長に繋がるという例なのかなと思います。
そんな笹岡さんにもっとアレコレ聞いてみたいと思われた方は、ONthe BARというお酒を飲みながら交流するイベントでゲストとして笹岡さんが登場されます!是非チェックしてみてください。
ONthe BAR 〜空間デザイン×プロジェクトマネジメント×ワークアズライフ〜(ゲスト:笹岡 周平)
https://onthe.osaka/column/event/1937
株式会社ワサビ
https://wasab.jp/