
街をもっと楽しく、もっと「ぐちゃぐちゃ」に。想定外を楽しむ劇場の仕掛け人
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。
今回お話を伺ったのは、東梅田で劇場併設型カフェバー「くさのね劇場」を経営する浅井さんです。音楽やお笑いなど、さまざまなジャンルのパフォーマーが集まる「くさのね劇場」。浅井さんに、お店を始めたきっかけや、これからの展望についてお話を伺いました。
インタビュアー / 鶴野 ふみ
- 劇場併設型カフェバー「くさのね劇場」代表 / 浅井 陸
- 高槻市出身。人事コンサルタントとして活動する傍ら、2025年9月、東梅田に「くさのね劇場」をオープン。音楽やお笑い、ダンスなど、さまざまなジャンルのパフォーマーが出演できる場を提供している。
好きな街を盛り上げたい。「くさのね劇場」の始まり

——「くさのね劇場」は劇場併設型カフェバーだそうですね。あまり聞き慣れない言葉ですが、どんなお店なんですか?
「ステージのあるカフェバー」です。ステージでは、音楽やお笑い、ダンスはもちろん、催眠術のショーなんかもあるんですよ。
イベントがない時は、普通のカフェバーです。昼は牛テールカレー、夜はこだわりのお酒を楽しんでいただけます。
——そもそも、お店を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
もともと、お酒がすごく好きで。30歳ぐらいから、この堂山・太融寺エリアで飲み歩いてきました。
この街って、狭いエリアにいろんなお店がぎゅっと集まっているんです。激安居酒屋があるかと思えば、高級店もある。スナックにゲイバー、ホストクラブにラウンジまで、本当にさまざま。いろんな人が自然に混ざり合っている。そんな雑多な感じがすごく好きなんです。
長く通っていると、好きだったお店が閉店したり、若い子をあまり見かけなくなったり。以前ほどの賑わいがなくなってきたなと感じることが増えてきました。
ただ、僕自身は飲む専門。まさか自分がお店を経営するなんて、当時は全く考えていませんでした。
それでも、好きな街が寂しくなっていくのはやっぱり残念で。どうしたらこの街をもっと盛り上げられるだろうと考えるようになったんです。
あれこれアイデアを考えるのは好きなんですよ。
——そこから、どうやって「劇場」という形になったんですか?

ちょうど同じようなタイミングで、パフォーマーたちと知り合いになったんです。そこで、以前より活動できる場所が少なくなっているという話を聞きました。
路上ライブや大道芸ができる場所も少なく、アルバイトやネット配信をしながら、なんとか活動を続けている人も少なくないらしくて。
それを聞いて、それまで温めていたアイデアは、パフォーマーさんたちにとっても価値があるんじゃないかと思うようになりました。こうして、それまでの構想が「くさのね劇場」という形になったんです。
「くさのね劇場」のキャッチコピーは、「ヒトは頑張っているヒトを応援したくなる」。
草の根で活動するパフォーマーさんたちがステージに立てる場所にしたい。そんな思いから、この名前を付けました。
場代0円を支える経営哲学

——くさのね劇場を運営するうえで、こだわっていることはありますか?
いろいろありますが、そのうちのひとつが、パフォーマーから場代をもらわないこと。
ただ、イベントのチケット代にはワンドリンク分の料金を含ませてもらっています。それがお店の売り上げになり、残りはパフォーマーさんの取り分になる仕組みです。
パフォーマーさんにもお客さんにも、無理なく利用してもらえることを大切にしたい。
出演するたびに高い場代がかかったり、お客さんも毎回高額なチケットを買わなければいけなかったりすると、気軽に利用してもらえなくなりますよね。できるかぎり負担を小さくして、何度も利用していただく方が、お店にとってもメリットになるんです。
パフォーマーには、ここでファンを増やしたり、経験を積んだりして、もっと大きな舞台へ進んでいってほしい。うちを土台というか、踏み台にしてもらえたらいいですね。
お客さんにも気軽に足を運んでもらいたいので、お酒の価格もできるだけ抑えています。
山崎や白州といったウイスキーはもちろん、ジンや焼酎、ビールなども全銘柄1杯1,000円。「高級酒がこの価格で飲める」ってことで通っていただいているお客様もたくさんいらっしゃいますよ。
——「くさのねコイン」というものもあるそうですね。これは何ですか?

うちのお店だけで使える、独自の通貨です。
ちょっとした遊び心で作ったものなんですけど、SNSをフォローしてくれた方に1,000円分のコインをプレゼントしたり、1万円をコインに交換してくれた方には、1万2,000円分をお渡ししたり。
売り上げがよかった月には、通常1,000円分として使えるコインを、2,000円分として使えるようにしたこともあります。
コインは、思わず財布に入れておきたくなるようなデザインにしました。財布にこれが入っていたら、きっと使いたくなると思うんですよね。
お店って、1回来ただけでは自分に合うかどうかわからないじゃないですか。2回、3回と足を運ぶうちに、うちの魅力を感じてもらえるかもしれない。
くさのねコインがそのきっかけになればいいなと思っています。
「ワクワク」って混ぜること。何が起こるかわからない楽しさ

——「ぐちゃぐちゃな店にしたい」という言葉が印象的でした。具体的にはどういう意味ですか?
いろんな人が混ざり合う場所にしたいんです。
堂山・太融寺が、まさにそういう街。全然違うジャンルのお店が隣り合っていて、いろんな人が集まってくる。くさのね劇場も、そんな場所になったらおもしろいと思うんです。
例えば、出演者のファンとして来た人が、たまたま隣に座った人と話したり、普通にお酒を飲みに来た人が、思いがけずパフォーマンスを楽しんだり。
イベントで初めてうちの店に来た人が、次はバーとして飲みに来てくれたら、それもうれしいですね。
「ワクワク」って混ぜることだと思っています。
普通のお笑いを観たいなら、ミナミへ行けばいい。せっかくいろんなジャンルのパフォーマーが集まるんだから、ここでしかできないことをやりたいんです。
——「ここでしかできないこと」って、例えばどんなことですか?
今年の春には、店内でお花見をしました。
室内でお花見って、普通なら桜の枝を飾るでしょう。でも、うちはペイントアーティストさんに、その場で桜の木を描いてもらいました。
最初は花のない木だったのが、2時間ほどかけて少しずつ桜の花が描き加えられ、最後には満開に。その横ではミュージシャンが生演奏しているんです。
音楽とアートを組み合わせた、うちらしいお花見になったと思います。
お笑い芸人と占い師さんを組み合わせたイベントもあります。
お客さんに悩み事を書いてもらって、まず芸人さんがそれをネタに笑わせる。そのあと、占い師さんがちゃんと占うんです。
普通なら一緒にならないものを組み合わせると、何が起こるかわからない。それがおもしろいんですよね。
もちろん、全部うまくいくわけじゃありません。大スベりした企画もたくさんあります。
そんな試行錯誤を重ねながら、最近では近隣のスナックやラウンジ、コンセプトカフェなどを巻き込んだカラオケ大会を開催しました。
僕の中では勝手に「笑と歌の街プロジェクト」って名付けてます。
その様子をInstagramのリール動画に投稿したら、これが結構バズりまして(笑)。
こうやって、くさのね劇場だけじゃなく、街全体でおもしろいことができたらいいなと思っています。
バランスの良さがONtheの魅力

——ONthe UMEDAは、いつごろから利用されているんですか?
もう3年ぐらいになりますね。仕事で使う登記先を梅田周辺で探していたのがきっかけです。ほかにもいくつか候補があって比較したんですが、総合的に見てONtheが一番バランスがよかったんです。
僕の場合、仕事の状況によって、週に3回ぐらい利用することもあれば、月に1回だけということも。だから、必要なときに必要な分だけ利用できる料金体系が、自分には合っていました。
——普段はどのように利用されていますか?
普通に仕事をしたり、打ち合わせをしたりしています。セミナーで利用したこともありますね。梅田という立地も便利ですし、会議室の選択肢が多いのもありがたいです。
少人数の打ち合わせにも、10〜20人ほどのセミナーにも対応できるので、人数や用途に合わせて部屋を選べるのは助かります。
くさのね劇場を始めてからは、お店も近いので、何かと便利なんですよ。今はONthe BOXで、くさのね劇場のイベントも紹介させてもらっています。
次の一手は、50人規模の劇場

——これから、くさのね劇場でやってみたいことはありますか?
次は、50人ぐらい入れる劇場をつくりたいと思っています。今のお店は20〜30人ほどの規模なんですけど、ここで経験を積んだパフォーマーが、もっと大きな舞台に進める場所をつくりたい。
もちろん、規模が大きくなっても場代0円は続けたいですね。
普通は会場が大きくなるほど、利用料も高くなるでしょう。でも、50人規模でも場代を取らずに経営できることを示せたら、ほかの劇場にも影響を与えられるかもしれない。
そうなれば、パフォーマーが活動できる場所も、もっと増えていくと思うんです。
ただ、経費も立地も考えなければいけないので、どうすれば実現できるか、今はいろいろ考えているところです。
——浅井さんは、アイデアを考えて、それを試してみるのが好きなんですね。
自分が考えたことが、思ったとおりにはまる瞬間が好きなんです。こうしたらどうなるかな、とあれこれ考えて、実際にやってみる。それが想定どおりに動くと、すごくおもしろい。
気分は戦国時代の軍師です(笑)。
変わらないことは退化だと思っています。今のやり方がうまくいっていたとしても、それがずっと通用するとは限らないでしょう?
だから、これからもいろんなことを考えて、試していきたいですね。
編集後記
「劇場併設型カフェバー」と聞いたときは、正直、どんなお店なのか想像がつきませんでした。
ところが、お話を伺ううちに、場代0円の仕組みやお酒の価格設定、くさのねコインに至るまで、一つひとつに緻密なプランがあることがわかってきました。
なんだか経済学の授業を受けたような気分に。
これは一度、お店に伺わなければ。
いただいた「くさのねコイン」も、使わないといけないし(笑)。
「くさのね劇場」の最新情報やイベントの詳細は、以下の関連リンクからご確認ください!
(文:鶴野 ふみ、写真:中山 雄治)


