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食卓に和みを。10年の時を経て再び動き出した「和醤油」

ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。
今回お話を伺ったのは、合同会社前田屋の代表・前田三津子さんと、開発者および「筆頭」の前田誠也さんです。和歌山ゆかりの素材を組み合わせた「和醤油」を手がけるお二人に、商品に込めた思いや親子で事業に取り組むことになった経緯、そしてこれから目指す前田屋の姿についてお話を伺いました。

インタビュアー / 鶴野 ふみ

合同会社前田屋 代表 前田 三津子 / 開発者・筆頭 前田 誠也
前田 三津子
合同会社前田屋 代表。長年、人と接する仕事や販売に携わってきた経験を生かし、営業や事業展開を担当。2025年、息子の誠也さんとともに合同会社前田屋を立ち上げ、翌年に「和醤油」の販売をスタート。

前田 誠也
合同会社前田屋 開発者・筆頭。和歌山県の梅農家に生まれ、料理人としての経験を経て「和醤油」を開発。現在は商品開発や味づくりを担う。

和歌山の食文化を一本に。「和醤油」とは

和歌山ゆかりの素材を一つに合わせた、前田屋の「和醤油」。

2026年8月に発売されたこの商品は、昔ながらの製法で作られた醤油をベースに、紀州南高梅と鰹節だしを合わせたブレンド醤油です。梅の酸味やだしの旨味が重なり、まろやかで少し甘みのある味わいに仕上げられています。

和歌山の梅農家の長男として育った誠也さんは、家業は継がず、飲食の世界へ。料理人として働くなかで、ヨーロッパではその土地ごとの食文化が大切にされていることを知り、改めて故郷・和歌山の食文化に目を向けるようになったといいます。

「調べていくうちに、梅だけでなく、醤油や鰹節も和歌山と深いつながりがあることがわかって。改めて、和歌山ってすごい土地なんだと思いました」

料理人として、さまざまな素材を組み合わせ、一つの味に仕上げてきた誠也さん。そこで、梅と醤油、鰹節という和歌山ゆかりの素材を一つにできないかと考えたことが、「和醤油」の始まりでした。

「『和醤油』という名前には、和歌山の『和』、和食の『和』、それから食卓に『和み』を届けたいという意味を込めています」

誠也さんが思い描いているのは、いつもより少し特別な食卓で「和醤油」を楽しんでもらうこと。刺身はもちろん、肉料理などにも合わせやすく、さまざまな料理に使えるのも特徴です。

「今日はちょっといいものを食べよう、というときに選んでもらえる醤油になればうれしいですね。いつもより少し特別な食卓に添えて、その時間に『和み』を届けられたらと思っています」

10年前の挑戦を、親子でもう一度

「和醤油」が最初に形になったのは、今から約10年前。誠也さんは個人で事業を立ち上げ、道の駅などで販売を始めました。

当時は販売の機会も少しずつ広がり、手応えを感じる場面もあったといいます。その一方で、商品づくりから販売、出店の準備までをほぼ一人で抱える日々が続き、事業として継続していく難しさにも直面しました。

「当時は何もかも一人でやっていて、続けていくのが難しくなってしまったんです」

次第にすべてを続けていくことが難しくなり、一度は活動を断念します。それでも、和醤油への思いがなくなったわけではありませんでした。

その思いをそばで見続けていたのが、母の三津子さんです。長年会社員として働いてきた三津子さんは、仕事に一区切りをつけたことをきっかけに、自身も新しいことに挑戦したいと考えていました。

「私自身、この味がすごく好きだったんです。もう一度、世の中に出したいと思っていました」

三津子さんは、単に息子の再挑戦を支えたいと考えたわけではありません。10年前から和醤油の味そのものに魅力を感じており、もう一度世に出す価値のある商品だと感じていたそうです。

「10年前から彼の思いはずっと知っていました。もう一度やるなら、今なのかなと思ったんです」

誠也さんが再び挑戦したいという思いを抱いていることを知り、二人で事業を始めることを決めた三津子さん。それぞれの得意なことを生かしながら、二人で前へ進んでいくことになりました。

こうして2025年、合同会社前田屋として再スタート。一度止まった和醤油の歩みが、今度は二人で再び動き始めました。

「つくる」と「動かす」、それぞれの役割

商品開発を担う誠也さんは、とことん味にこだわるタイプ。一方、長年、人と接する仕事や販売に携わってきた三津子さんは、その経験を生かし、営業や事業展開など、前田屋を動かす役割を担っています。

それぞれ得意な分野や考え方が違うからこそ、商品づくりを進めるなかで意見がぶつかることもあるそうです。

今回の和醤油も、誠也さんがより納得できる味を追い求めたことで、当初の予定より完成までに時間がかかったといいます。

「前よりもおいしいものを作りたいと思って、こだわりすぎて自分でも迷子みたいになってしまって。でも今回は、本当に納得のいく味にたどり着けました」と誠也さん。

対する三津子さんは、コストや発売までのスケジュールも考えなければなりません。

「味にこだわることは大切。でも、事業として進める以上、どこかで形にして世に出していかないといけないと思っています」

そんなふうに意見を交わしながら事業を進める二人ですが、その関係には、これまで積み重ねてきた時間があります。

子どものころから、仕事に打ち込む三津子さんの姿を身近で見てきた誠也さん。自身も社会人になり、料理人として働くようになると、仕事について三津子さんに相談することが増えていったそうです。

「仕事への向き合い方は、ずっと尊敬しています。相談すると、『なるほど』と思える答えが返ってくることも多いですね」

母であると同時に、社会人としての先輩でもある三津子さん。そんな存在だからこそ、誠也さんは仕事のパートナーとしても大きな信頼を寄せています。

「一緒にビジネスをするなら、これ以上ないくらい心強い存在ですよ」

三津子さんも、二人の関係についてこんなふうに笑います。

「母親として言うと『うるさい』って言われるんです。でも、仕事の先輩として話すと聞いてくれますね」

同じゴールを目指しているからこそ、時にはぶつかる二人。その関係を誠也さんは、刀を作るときに散る「火花」にたとえます。

「火花を散らしながらも、二人で前田屋を一本の名刀のように磨いていけたらいいですね」

挑戦する気持ちを支える、ONthe UMEDA

前田屋の活動拠点として選んだのが、ONthe UMEDAです。以前から前を通ることがあり、気になっていたという三津子さん。実際に見学し、立地のよさや空間の雰囲気に惹かれたそうです。

現在は打ち合わせや商談などで定期的に利用。梅田というアクセスのよさも、お客様を案内する際のメリットになっているそうです。

「ここに来ると、前向きなエネルギーをもらえるんです。挑戦する人を応援してくれる場所だと思っています」

三津子さんが「前向きなエネルギー」を感じている一方で、誠也さんが印象に残っているのは、スタッフのあたたかさ。

「スタッフの皆さんがすごく優しく迎え入れてくれます。ウェルカムな感じがあって、それがすごく好きですね」

新たな挑戦を始めた二人にとって、ONthe UMEDAは仕事の拠点であるだけでなく、その挑戦を後押ししてくれる場所にもなっています。

和醤油から、和の暮らしを届けるブランドへ

和醤油は、前田屋にとって最初の一歩。今後は、さまざまな蔵元の醤油を使った和醤油や、塩、だしなど、新たな商品にも展開していきたいと考えています。

そんな商品づくりのなかで、誠也さんが大切にしているのが、素材をつくる人への敬意です。

「蔵元さんにもきちんと敬意を持って、その素材を使わせていただく。素材と誠心誠意向き合いながら、ブレンドしていきたいと思っています」

昔ながらの製法を守り続けてきたつくり手がいるからこそ、自分たちの商品が生まれる。まずは今できることに取り組みながら、いつかは醤油そのものを一からつくることにも挑戦してみたいと、誠也さんは話します。

一方、三津子さんが思い描いているのは、「食」だけにとどまらない前田屋の姿です。調味料から食器や雑貨へと少しずつ広げながら、日本らしい暮らしそのものを提案できるブランドを目指しています。

「和の暮らしを豊かにする、そんな方向の前田屋にしていきたいと思っています」

将来的には海外への展開も視野に入れているそう。まずは和醤油を多くの人に知ってもらうことから、一つひとつ前田屋というブランドを育てていきます。

10年の時を経て、再び動き始めた前田屋。和醤油から始まった挑戦は、「食卓に和みを」届け、その先にある「和の暮らし」へと少しずつ広がっていきます。

編集後記

取材後、「和醤油」を少し味見させていただきました。口に含むと、まず感じるのは鰹節だしの旨味。そこにやさしい甘みが重なりますが、甘すぎることはなく、すっきりとした味わいでした。

この甘みには、三津子さんの故郷・長崎の味の影響もあるそう。誠也さんによると、「隠れ要素」として少し甘めに仕上げているのだとか。和歌山の素材を一つにした醤油のなかに、三津子さんのルーツもひそかに加わっているのが印象的でした。

取材中に気になったのが、誠也さんの肩書きにある「筆頭」という言葉。開発者である誠也さんが、「いいことも悪いことも、真っ先に自分が頭を下げに行く」という思いを込めて名乗っているそう。少しユニークな肩書きですが、商品づくりへの責任の持ち方が表れているように感じました。

お二人はそれぞれ得意なことも考え方も違いますが、その違いがちょうどよくかみ合っているように感じました。取材中の掛け合いも楽しく、あっという間の時間でした。

10年の時を経て、再び歩き始めた前田屋。これからどんな商品や「和の暮らし」が生まれていくのか、今後がとても楽しみです。

前田屋の最新情報や「和醤油」の詳細は、公式HPや各SNSからご覧いただけます。

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