
自分のペースで、自由に生きる。「やりたいことを、やる」を続けた現在地
インタビュアー / 大野 佳子
- 株式会社angenic 代表取締役・映像クリエイター / 安井 竣希
- 新卒でSEとして働いたのち、父の病をきっかけに実家の建材店を継ぐ。人生の転機を経て、マンション事業で起業。その後、動画制作に惹かれ、映像制作会社「株式会社angenic」を設立。「やりたいことをする」をモットーに、新しい挑戦を続けている。
「いつか自分も商売をしたい」父からの事業承継、廃業を経て、自ら起業へ
——これまでのキャリアについてお聞かせください
新卒でSEとして就職した数年後、父に癌が見つかり、余命半年と告げられました。突然の出来事でした。
父は建材店を営んでおり、事業をどうするのかを決める必要がありました。父は、店を閉めようとしました。ですが、私は幼い頃から「いつか自分も商売をしたい」と思っていました。そこでSEを辞め、実家の店を継ぐことを選びました。
それからは肉体労働の毎日でした。しかし当時の建築業界は不況で、売上は減少。同業他社との競争も激しさを増していきました。事業継続は次第に難しくなり、最終的に廃業を決断しました。
35歳で再びサラリーマンに戻ることになった矢先、離婚を経験しました。
けれど、この離婚がきっかけになって、自分の将来や生き方を見つめ直しました。そこで辿り着いたのが、「自分のやりたいことをやろう」という思いでした。
最初に思い浮かんだのが、アメリカのMBA大学院への進学です。もう一度、自分の手で事業を起こしたいという気持ちは、どうしても諦めきれませんでした。
それからは、昼は会社勤め、夜は勉強の日々。しかし忙しさばかりが増え、MBA留学に向けた英語力は思うように伸びませんでした。このままでは時間がもったいない。そう感じ、思い切って会社を退職し、勉強に専念することにしました。すると今度は、お金のやりくりが大変になり、留学資金を貯めるのが難しくなりました。
——お金の問題はどのように解決されたのでしょうか?
そのとき思い出したのが、建材店を営んでいた実家の土地でした。幸いにも母親との共有名義の土地であったため、その土地にマンションを建て、家賃収入を留学資金に充てられないかと考えたのです。正直なところ、最初は「留学資金を稼ぐためのマンションだから建ててしまえば何とかなるだろう」という軽い気持ちでした。
ところが、実際に動き始めると、現実的な課題が次々と見えてきました。銀行からの融資を受けるには、まず法人設立と事業計画書の作成が必要でした。市場調査のために、実際に足を運んだ物件は100件を超えます。内装業者や建材メーカー、工務店などの専門業者とも打ち合わせを重ねました。
こうした過程を経て、2015年にマンション事業の会社を設立しました。自然と「自分の理想の賃貸マンションを作りたい」という思いは強くなり、この事業にのめり込んでいきました。すると、本来の目標だったMBA大学院への意欲が薄れていきました。
そもそもMBA大学院を目指したのも、「自分で事業をしたい」という思いがあったからです。マンション事業に本気で取り組むうちに、大学院進学にこだわらずとも、不動産ビジネスを確立するほうが、自分にとってより納得のいく選択だと感じるようになりました。
事業の基盤と資金があれば、次のやりたいことにも挑戦できる。そう判断し、米国MBA留学を断念してマンション事業に専念することを決めました。
「時間とお金はある。張り合いはない」動画制作が、燃え尽きからの転機になった
——マンション事業に専念されてからは、いかがでしたか?
マンション建設に向けて、コンセプトを練り、入居者像を描き、間取りやデザインにもこだわりました。特に集中して取り組んだ期間は約3年。2017年に竣工し、部屋は満室となりました。努力が実を結んだ瞬間でした。
一方で、日常的に自分が関わる仕事はほとんどなくなりました。運営は管理会社に任せていたため、収入はあるものの、無理に働く理由が見つからない。時間を持て余し、張り合いのない日々が続きました。次第に、精神的な燃え尽きを感じるようになっていきました。
そんなとき、知人から「どうせ時間もあるんだし、休暇もかねて半年くらい、海外でも旅してきてみたら?」と勧められました。
大学生時代にヨーロッパをバックパッカーとして回っていたことを思い出し、再び旅に出ることにしました。「どうせ行くなら海外のいろんな風景を写真におさめたい」と、ヨドバシカメラで初めてカメラを購入しました。しかし、実際に撮ってみると、思ったほど楽しくありませんでした。
ところが、世界各地の都市や風景を音楽とともにまとめた動画をYouTubeで目にしました。それを見た瞬間、「動画だ。こんな映像が撮りたい」と強く心を動かされました。居ても立っても居られず、動画撮影用のカメラを買い直しました。
カメラを携えて、イタリアやスペインを1カ月ほど巡り、帰国後にYouTubeへ動画を投稿すると、想像以上の反応がありました。それが楽しくて、何度もヨーロッパを訪れました。ドイツ、ベルギー、フランスなどを回り、撮影と投稿を繰り返しました。
ただ、何十本も制作するうちに、次第に慣れと飽きが生まれてきます。
そんなとき、偶然立ち寄ったODP(大阪デザイン振興プラザ)で「クリエイター入居者募集」の案内を目にしました。映像制作について学ぶつもりで話を聞いたところ、それは独立支援の募集だったのです。この募集がきっかけとなり、2019年12月、動画制作会社「株式会社angenic」を設立しました。
「映像づくりは料理に似ている」試行錯誤を楽しむ仕事
——株式会社angenicの事業内容について教えてください
映像制作全般を手がけています。ドローン空撮、ビジネスアニメーション、撮影・編集、ビジネス漫画の制作など、ジャンルは多岐にわたります。企画から撮影、編集、納品までをワンストップで対応しています。
制作で大切にしているのは、「何のためにつくるのか」という視点です。お客さまの目的や課題、どのように活用したいのかを丁寧に聞き取り、その思いを形にすることで、課題解決につながる映像を提案しています。
実は、昨年から料理教室に通い始めて、気づいたことがあります。映像づくりは、料理によく似ています。
まず、作りたい料理があり、そのために必要な素材を揃える。映像で言えば、素材はシーンです。目に映る情景から必要なシーンを切り取り、それらをどう組み合わせ、どんな演出を加えるかを考えていく。BGMや効果音、アニメーションは、いわば、仕上げの調味料です。
このプロセスを考えること自体が、映像づくりの楽しさだと感じています。
そして、ありきたりの映像は作りたくありません。カレーでも、普通のカレーを出されたら「これ、普通の味やな」となります。食べたことのないもの、いつもと違うもの、隠し味があるような映像を作りたい。そして、お客さまが見たときの満足度を高めることが、一番のやりがいであり、目標です。
現在、AI漫画を活用した出版について学んでいます。お客さま自身や会社のストーリーを、100ページほどの漫画として形にする講座です。
これまで、四コマアニメを使った映像制作にも取り組んできました。そうした経験を活かしながら、お客さまに新しい伝え方を提案していけたらと考えています。
人と近すぎず、遠すぎない。自分のペースでいられるONthe
——ONtheをどのようにご利用されていますか?
立地が良くて、気軽に足を運びやすいです。私は、その時の気分に応じて仕事場所を決めているので、気分転換としても活用しています。
フロア内でも、個別ブースやオープンスペースなど、場所を変えられるのがうれしい。天井が高く、広々としているのもお気に入りです。
そして、ご利用されている方々と、いい意味での距離感があって使いやすいです。交流ができる場所では、ビジネスの話を断りにくい場面もあります。ここでは、そうしたしがらみがありません。人間関係に気を揉むことなく、自分のペースで作業に没頭できます。交流しないメリットと言えるかもしれませんね。
また、話し声などのノイズがちょうどいい。そのおかげで集中とリラックスの両方ができます。
そうした点を含めて、とても居心地がいい場所だと思います。
「やりたいことをやりきって、生きていく」
——仕事とプライベートのバランスは、どのように取っていますか?
約3年前、仕事があまりにも忙しくなった時期もありました。ひとり社長という立場上、リソースは自分だけ。仕方がない部分もありますが、意識的に趣味の時間を持つようにしています。
ゴルフを始めてからハマってしまい、パーソナルレッスンにも通い、ついにゴルフ場のメンバーにもなってしまいました(笑)
また昨年の秋から料理教室にも通い始め、料理やパン作りを楽しんでいます。ピラティスやキャンプも始めたりと、とにかく自分の興味のあることにチャレンジしまくりましたね。
その中で一番大きなチャレンジとして、昨年の夏、大型バイクの免許を取得しました。高速道路は今でも怖いですが、「一瞬でも気を抜いたら終わってしまうな」と緊張しながら運転しています。今年は、バイクで北海道を走ってみたいですね。
——やりたいことを続けるうえで、大切にしている考え方はありますか?
書籍『Die With Zero』(ビル・パーキンス著)に影響を受けました。
「死ぬときに、どれだけお金を持っていても意味はない。できるだけ使い切って死んだほうがいい。そのために、やりたいことはやったほうがいい」という考え方です。だからこそ、後悔のないように、やりたいことをやりきって生きていきたいと思っています。
編集後記
安井さんの個人YouTubeを拝見しました。安井さんの足で訪れた世界が、いまも息づいているように感じられます。
初めて目にする場所であるはずなのに、なぜか以前から知っていたような、懐かしい感覚が立ち上りました。
人や世界の輝き、そして移ろいを、これからもぜひ見てみたいと思いました。
株式会社angenicのホームページはこちら
安井さんの個人YouTubeはこちら
(文:大野 佳子、写真:中山 雄治)







