
「モノの流れを整えるとすべてうまくいく」ロジスティクスの力で企業を救う
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。
今回お話を伺ったのは、ロジスティクスのコンサルティングに特化した『L2コンサルティング株式会社』代表取締役、吉野宏樹さんです。ロジスティクス畑一筋に歩まれてきたこれまでの軌跡と、物流業界を盛り上げたいという熱い想いについて、詳しくお話を伺いました。
インタビュアー / 知院 ゆじ
- L2コンサルティング株式会社 代表取締役 / 吉野 宏樹
- ⽇本出版販売株式会社、楽天株式会社などでロジスティクス戦略、プロセス・サービス設計、コスト最適化など一貫してロジスティクス領域に従事。2014年より10年間、株式会社MonotaROの物流管掌執⾏役として、複数の⼤規模物流センターの⽴ち上げを含む物流拠点ネットワークの構築に携わる。2025年に独立し、L2コンサルティング株式会社の代表取締役に就任。
物流の現場は魅力的に変化している

「物流の現場は急激に変わって、魅力的な職場になってきています」
と、吉野さんはいう。合気道(大東流合気柔術)を長年続けてこられた影響もあってか、語り口は穏やかだが言葉に軸の通った強さがあり、心の中にストンと落ちてくる。
ロジスティクスの問題点を特定し解決に導く

吉野さんは、2024年にロジスティクスのコンサルティングに特化した「L2コンサルティング株式会社」を設立。企業が抱えるロジスティクス関連の課題に対し、物流戦略の策定や物流自動化の導入支援などを行っている。
「近年、人件費もモノの値段も年々高くなってきました。そして、ドライバー不足や作業に従事する人材不足というのがその背景で、物流業界を取り巻く状況です。一方テクノロジーの観点で見ると、自動化技術の進化は目覚ましく、近い将来には倉庫内のピッキングや運搬は人間型ロボットに置き換わるといわれています。そういった流れを汲んで、物流の自動化にチャレンジして生産性を高めたいという企業さまのお手伝いをするのが、私の会社の主なサービス内容です」
物流の最適化に大切なのは、業務やサービスレベルの設計と組織作りだと吉野さんは語る。
「組織的な問題、業務プロセス、設備システムという3つの視点からアセスメントを行い、課題を抽出して解決をお手伝いするというアプローチをしています。自社物流を持たない企業にはお客さまの要件に合った3PL(サードパーティ・ロジスティクス、物流部門を専門的な第三者企業に委託する形態)の選定、自社でコントロールした方がサービスやコストを改善できる場合は物流センターの構築をアドバイスしています。また、組織設計や採用といった部分に携わることもあります」
望まなかった配属から物流の専門家へ

社会人としてのキャリアは、意図しない形でスタートした。
「父が出版社にいたので、小さな頃から本に囲まれる生活をしていました。私自身読書が好きだったこともあり、本の営業に携わる仕事をしたいと日販(日本出版販売株式会社)に就職しました。ところが、新卒で配属されたのが物流センターで。来る日も来る日も、本がぎっしり詰まった段ボールをベルトコンベアに上げ下げする日々でした」
物流の専門家へとつながる転機が訪れたのは、入社3年目のことだった。
「物流の企画部門へ異動したんです。ちょうどAmazonが日本でECを始めようとしていた時期と重なり、日販からAmazonへ本を流通させる仕組みを作るメンバーに選ばれました。その経験が『物流とEコマース』という私のキャリアの原点ですね」
その後日販を退職し、楽天へ。出店店舗の成長に伴う物流課題を解決するため、自社物流に踏み切るタイミングだったこともあり、ECと物流の領域で深く携わる。そして、2012年に物流コンサルタントとして独立。最初の顧客になったのが『MonotaRO(モノタロウ)』だった。
「当時のモノタロウの社長と楽天で仕事をしたことがあったご縁で『吉野さん、物流で食べていくならちょっとウチに来てよ』と声をかけてもらい、尼崎の物流センター立ち上げに参画しました」
2014年、正式にモノタロウへ移籍したタイミングで、縁もゆかりもなかった関西へ家族で移住した。
「現在の会社を立ち上げる直前まで、モノタロウの物流の責任者として10年間在籍していました。モノタロウでは、茨城と兵庫にある5つの物流センターの設計とマネジメントを経験しました」
尼崎の立ち上げ時は300億円前後だったモノタロウの売り上げは、退職時には2,500億円規模に。その急成長を支えたのが、吉野さんが取り組んだ物流機能の自動化だった。
「スーパーで買い物をするとき、カートを押して必要なものをカゴに入れて回りますよね。物流のピッキングもそのような印象だと思うのですが、自動化された物流センターでは、自分が動くのではなく商品の棚が動いて目の前までやってくる。自動化の導入で、これまでのイメージとはまったく違った世界が現実になってきています」
何よりも大切なのは『物流の整流化』

意図せず就くことになったロジスティクスの業務に、現在も深く関わり続けている吉野さん。その原動力は、どのようなところにあるのだろう。
「日本でのEC市場の黎明期に携われたことが大きいですね。大規模なECと物流を掛け合わせた経験を持つ人は、まだまだ日本には少ない。これを活かすことで自分の強みが発揮できるのではと考えたのが、現在の仕事を続けるきっかけになっています」
ECに関わる物流ビジネスをここまで大きくするには、やはりトライ・アンド・エラーは不可欠だ。
「よくやりがちなのが、工程の一部だけに注目して自動化を進めてしまうこと。これではうまくいきません。物流は、その名のとおり物が流れてはじめて機能するものです。商品が滞留せずにうまく流れるにはどこを改善すればよいか、原因を見つけ出して全体を整える。それが『物流の整流化』であり、当社でも取り組み続けている課題です」
物流センターを一から作るには、計画から稼働まで平均2年程度、土地の購入からとなると長ければ5年以上かかる長期プロジェクトになる。吉野さんも、これまでに幾度となく困難な状況に直面してきた。
「強く印象に残っているのは、モノタロウの尼崎センターの立ち上げですね。導入した設備やシステムが想定通りに動かず、トラブルが続出したんです。連日、深夜12時過ぎまで当時の社長と二人で設備を眺め、現場に張り付く日々。東京から関西へ転居した直後で不慣れな環境の中、このままでは会社が潰れるかもしれないと覚悟するほどの大きなプレッシャーを感じていました」
先の見えない絶望的な状況であっても、解決しないと前に進めない。
「そもそも今何が起きているのか、トラブルが起きる原因を再現し、どこがボトルネックになっているのか徹底的に調べるしか改善方法はありません。そこで、工程ごとの能力差を見極めて一番能力が低い工程に合わせて全体の物量を調整し、ボトルネックとなっている工程の能力を徐々に引き上げるアプローチを取って、何とかうまく回るようになりました」
こういった地道な努力があってこそ、企業の基盤となる物流機能の安定稼働がある。
ONtheは静かすぎないから集中できる

吉野さんがONtheを利用し始めたのは、3年くらい前。けっこう長い付き合いである。
「出張時にちょっと仕事をしたいと思ったときに、カフェよりもう少し集中できる環境があればよいなとコワーキングスペースを探していたのがきっかけで、ONtheを見つけました」
「在宅での仕事は自分には向いていない」と、吉野さん。週に3回ほどONtheを利用しているそうだ。
「在宅勤務の経験がほとんどないのが、向いていない理由の一つです。責任者として物流を止めるわけにはいかなかったこともあり、コロナ期間中でも常に会社へ出勤していたので、在宅勤務という働き方がイマイチしっくりこない。もう一つ理由があって、家にちっちゃいワンコがいて、足元にやってくるともう可愛くて可愛くて仕事にならないんですよ。そういった意味でも、家にいるより外で仕事をするほうが圧倒的に集中できますね。ONtheは周りに人がいて、静かすぎない環境なのが私に合っていると感じています」
ONtheは、出張や打ち合わせで使用する資料づくりや、オンライン・オフラインでの打ち合わせによく利用しているとのこと。
「駅に直結しているので、雨の日でも濡れずに来られるのがいいですね。ホームページ用の写真撮影や行政書士、社労士の紹介など、スタッフの方々に困りごとを相談すると迅速にいろんな方をつないでくれるのもありがたいです。あと、繁華街が近いのでお客さまとの会食に行くのに便利なのも、密かに気に入っています」
物流にもっと興味を持ってもらいたい

将来的に、仕事に志や夢をもてるような物流の職場づくりや、物流に携わる若い人材をもっと増やしていきたいと吉野さんは考えている。
「残念ながら物流と聞くと、どこか昔ながらの3K(きつい・汚い・危険)のような印象がまだ強く、デザイン・ものづくり・営業などの業種に比べて人が集まりにくく、敬遠されがちです。しかし、最近の物流センターはおしゃれなカフェテリアがあったり育児スペースが完備されていたりと、3Kのイメージとはほど遠いことに驚かれると思います。仕事の質も変わってきており、肉体労働の部分は自動化して、人間は業務設計やシステム開発などの領域を担うという流れにシフトしてきています。こういった物流業界の内情を男女問わず若い方に知ってもらえれば、もっと興味を持って携わってくれる人が増えるのではないかと思い、仲間と一緒に勉強会などの取り組みを始めました」
企業においても、物流部門の人材不足という課題がある。
「企業内で物流部門はコストセンターと見なされて、積極的に人材投入してこなかった過去があります。しかし近年状況が変わってきて、メーカーであってもECに対応する必要が出てきました。早くから自動化に取り組むAmazonやモノタロウといった大手のEC企業は、物流に大きな投資をして優秀な人材を配置しています。しかし、多くの企業では長年物流に注力してこなかったため社内に人材がおらず、外部の力を借りるしかない状況になっている。そこで、私たちがお客さまと一緒にプロジェクトを組成し、ロジスティクス部門全体のお手伝いを通して、共に成長できることを目指して取り組んでいます」
吉野さんの提供するコンサルティングサービスは、問題解決だけにとどまらず、事業の継続や成長を見据えて展開している。
「設備やシステムのご提案もそうですが、組織としてお客さまが自走できるように支援するという想いを持って取り組んでいます。近年、CEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)やCOO(Chief Operating Officer、最高執行責任者)といった役職に加えて、CLO(Chief Logistics Officer、最高物流責任者)という役職が欧米で置かれるようになり、単なる物流部門の責任者ではなく、経営目線の一員としての役割が重視されています。日本でも、ある一定以上の物流を扱う企業にCLO設置義務が来年以降に法制化される予定です。そういった人材育成や、CLOと共に伴走できるようなサービスを、当社でも積極的に展開していきたいと思っています」
編集後記
お子さんの付き添いで始めた合気道。いつの間にか、吉野さんのほうがのめり込んでしまったそうです。
「合気道を始めて、身体に気をつかうようになりました。体を柔らかくすることでケガもしにくくなりますし、定期的に運動することで健康維持にもつながっています。年齢を重ねてもできる武道なので、現在二段なのですがさらに高みを目指したいですね」
合気道は、現在の仕事にもプラスになっていると吉野さん。
「仕事への向き合い方や、お客さまとの対話の中で『気を合わせる』という合気道の考え方が活きています」
もし、相手が気を乱してしまうとどうなるのでしょうか。
「乱されたら、取り戻すように目線を送って、気を合わせるように整えていきます」
まさに『整流化』。私も知らず知らずの間に整えられていたのかと思うと、なんだか気恥ずかしいです。
(文:知院 ゆじ、写真:中山 雄治)


