「対話で人々の心を照らしたい」メディエーターの私だからできること。
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。お話を伺ったのは、フリー医療メディエーター竹内陽子さんです。対話を通して医療者・患者の関係最善の手助けをされています。今回は、ご経歴と対話に対するご自身の想い、メディエーションの可能性について、詳しくお話を伺いました。
インタビュアー / RINO
- フリー医療メディエーター / 竹内 陽子
- フリー医療メディエーター燈芯草(とうしんそう)/竹内 陽子(たけうち ようこ)
医療・福祉・人材マネジメントなど多様な知識で医療者・患者の想いに寄り添い、互いの対話で関係構築や問題解決を図る。
現在は、メディエーションの可能性をひろげるべく、企業研修やセミナー講師、講演会の登壇など積極的に活動。
プライベートは、3人の子どもを育て上げたパワフルなお母さん。
医療メディエーター(医療対話推進者)とは?
医療メディエーター(医療対話推進者)という仕事をご存知だろうか。
恥ずかしながら、私は知らなかったのでお話を伺うことに。
「医療メディエーターは、医療者と患者間で生まれた、診療上のトラブルを解決・関係改善を手伝う仕事です。メディエーション(仲介、調停、仲裁、媒介)を使って、当事者同士が安心して対話できる場を提供し、信頼関係構築・医療紛争の未然防止を図ります。
入院診療明細に『患者サポート体制充実加算』の記載がある病院は、必ず相談窓口が設置されていますよ。」
と教えていただいた。
女性の社会進出が難しい時代でも働くことを決してあきらめなかった
竹内さんは、そもそも最初から医療従事者というわけではなかった。 高校卒業後、大企業の子会社に就職する。社員数は少なく、店長会議の資料や商品広告の制作から、人材育成などをしていた。
「皆さんも知っている大企業の社員様相手に、経験不足だった私が、意見させてもらったこともあります。」
と笑顔で語ってくれた。
入社して約10年後、さまざまなキャリアを積んだ竹内さんに、出産という大きな転機が訪れる。今でこそ女性が外で働く、男性が家事をするのは自然だが、その当時は180度違った。
「子どもを妊娠した際、パートナーと“どちらが外で働くのか”と話し合いました。当時は男女雇用機会均等法導入間もない時代。母親は家を守り、父親は外で働くのがまだ多数派のため「子供のためには都合がいいかな」と、私が専業主婦になる道を選びました。」
パートナーとの対話を重ね、お互いの想いを確認し合って進むと決めたと話す姿は、女性のしなやかさ、母親としての凛とした強さを感じる。
ただ、もともと働くことが好きだった竹内さん。いつでもフルタイムに戻れるよう、短時間のパート勤務や、資格の勉強を積極的に行っていた。
「一番下の子が小学1年生のとき、保持している介護福祉士の資格を活かさない手はないと思い、訪問介護事業所でサービス提供責任者としてフルタイムに復帰しました。」
恐怖から逃げずに突き進む心の強さ 恩師との出会い
フルタイム復帰後は、ホームヘルパー職員(以下、ヘルパーさん)の育成・指導や、業務管理を行うサービス提供責任者に。ある日、訪問介護のために出ていたヘルパーさんから利用者様が動かないとの連絡が。
どうやらヘルパーさんが利用者様の家に到着したときには、すでに亡くなっていた。声をかけても返事はなく、動かなかったため、連絡をいれてくれたと竹内さんは話す。
「私がサービス提供責任者として働いていた当時は、20時間ちょっとの研修を受けたら、ホームヘルパーの資格が取れました。医療的なことを学んでこなかった普通の主婦だった人たちが、ヘルパーさんとして働くんです。
そのような人たちが利用者様の『死』や『生命の重篤な危機』など、どんな状況にも『一人で』対峙しなければならないんです。」
竹内さん自身も医療について深く知らない状態で、ヘルパーさんたちを支えていけるのか怖くなったそうだ。
「ヘルパーさんたちに向き合うには、もっと勉強しなきゃいけない。そうして日本福祉大学通信教育部で医療福祉を学び、学士号を取得しました。」
サラリと話されていたが、すごいことである。
医療福祉について学んでいく中で、論文指導を受けた恩師の一言が、病院勤務のきっかけとなる。
「福祉をするなら、まずは医療を勉強しなさい。そして、どんな形でもいいから医師と対等に話せるようになりなさい。」
専門知識で対等に会話できる メディエーションの第一歩
医師と対等に会話するとは何なのか、恩師の言葉の真意を理解するため、5つの病院に勤務し受付から経営企画、人事、総務などの管理職まで様々な職種を経験した竹内さん。
外部研修で医療や病院経営に関する知識も深め、医療メディエーターや病院経営管理士といった複数の資格も取得。そんな忙しい日々を過ごす中で、あることに気がついた。
「医師は、病気や治療に関する専門家でも、私が担当している人事労務制度などについては専門外です。私の仕事にかかわることならアドバイスもできる!自身が持つ知識を磨いて、それをもとに、話すことが『対等に話す』なんだと分かりました。」
その後、自然に医師との信頼関係ができあがり、いつしかプライベートでも関わる機会が増えたという。
当事者の対話で問題解決 気兼ねなく相談できる場所づくりを
-患者に寄り添い話を聞くことの必要性に気づく
医療者との信頼関係を築き上げる一方、竹内さんはある病院でサービス担当課長として『総合相談窓口』を一人で担当することに。担当する以前の相談窓口は、あまり目立たない場所にあり、看護師が患者の病状などから受診する科をアドバイスする業務が主だった。
竹内さんは、病状だけでなく患者側の声をしっかり聞く重要性を、病院側に提案。窓口は誰もが目に入る正面入口に移設し、誰もが気兼ねなく相談できるよう、改革に努める。
相談を聞くうちに竹内さんは、相談する患者の多くは、病気と日常生活の不安を医療者にうまく伝えられていないことが分かった。
「医師は病気の治療をメインに話します。しかし、患者さんやご家族は、病気とそのあとの生活を考えています。病気にかかった当事者や身内からしたらそこが大切ですから。当事者同士が言葉足らずで認識がずれてしまうんです。
認識のずれについては、患者さんの病気が治れば忘れていくだけなのですが、もし、不幸な結果になってしまったら……。最悪の場合、医療裁判に発展してしまう場合もあるんです。
医療裁判で決着しても、医療者・患者さんとそのご家族、どちらも傷が残ります。そんな悲しいことにならないように、疑心暗鬼で覆われたそれぞれの想いに、光を照らしたかったんです。」
丁寧に話を聞いた結果、医療者側と患者側に対話の場を設けなくても、相談窓口で問題解決できる内容が多かったという。
-誰もが気兼ねなく話せる場所を作りたい 燈芯草が誕生
しかし、一つの病院で患者側の声をすべて聴くのは、人員的な問題もあって難しいのが現状だ。患者側も、窓口で話した相談内容が、担当医師の耳に入ることで肩身の狭い思いをするのではないかと不安になり、相談自体を避けるという。
相談できなかったことで患者側は、相談していたら、こんなことにはならなかったのではと後悔されることも少なくなかった。そんな話を聞くうちに、
「なら、外部に相談できる場所を作り、患者さんが安心して話せる場所を作ろう。会社員・母親を経験し、病院業務・病院管理の知識がある私だからこそできる、私にしかできない!」
その想いから、フリー医療メディエーター『燈芯草(とうしんそう)』を立ち上げた。
ONthe UMEDAは立地が便利で、隙間時間で行う作業場としては最適
以前は違うスペースで事務作業をしていたが、知人からONtheUMEDAを紹介されて活動拠点を移した竹内さん。
「こちらでは、セミナーの開講、クライアントとの面談、研修・講演会資料の作成などをする際、利用しています。」
東梅田から徒歩1分という立地も便利なので、打ち合わせや短時間の利用でも便利に使っているそうだ。
メディエーションの可能性は無限大
燈芯草では新たな試みとして、とある企業の社長と社員の関係改善のためのメディエーションを行っている。
「思い通りに働いてくれない社員に対して“自分への反意があるのでは”と悩む社長。社員は実際どう思っているのだろう、その想いを知るため、当事者同士で対話をしてもらう前に面談に入りました。
すると、社員は社長の意図が理解できていなかっただけだったことが分かったんです。それどころか、社員は、会社や社長のことをとても大切に考えていました。
本音が見えると、疑心暗鬼に陥っていた二人の関係性が改善し、仕事の効率があがるといった、うれしい反応が見られました。」
メディエーションに入ったことで、当事者同士に対話の機会が与えられ、問題解決以上の成果が出たというのだ。
竹内さんは今後、医療にかかわらず、メディエーターを育成して組織化を目指す。 医療だけにとどまらず、さまざまなシーンでも対話で問題解決が可能だ。しかし、なぜ日本ではメディエーションが浸透していないのか。話を伺ったところ、
「日本では、聖徳太子の17条意法の第1条にある“和を以て貴しと為す”という精神もあったため、昔から話し合って解決する文化が根付いていました。
学校で、相手を説得するためのディスカッションやディベートについての教育は実施されています。ですが対話は、相手との会話で自然に訓練されてきたものなので教育自体がなく、メディエーションという言葉を知らない人が多いんですね。」
日本人は当たり前のようにできていた対話だが、多様性の進んだ現代では、直接会って話すという意思疎通の方法が減り「対話する」訓練の機会が少なってきていると竹内さんは危惧している。
対話が消えつつある中、竹内さんは、メディエーションの可能性を伝えるため、スピーカーとして以下のイベントに登壇する。
編集後記
燈芯草は畳に使われているイグサの別名だが、なぜ活動名につけたのかを伺ってみると、
「燈芯草は、和ろうそくの芯として使われています。私は“メディエーション”という“ともしび”で、人々の心をやさしく照らしたい」
そんな想いで名づけられたという。
実は、燈芯草の花言葉には「信頼」、「固く信じる」、「信じて疑わない」などがある。女性としての芯の強さ、メディエーションの可能性を信じて疑わない姿勢が、まさに竹内さんだと感じた。
なお、竹内さんが運営されている燈芯草で、医療メディエーターについて詳しく解説されています。ぜひ、ご覧ください。