「自分がイヤなモノは、みんなイヤでしょ!」環境保護と使い捨ての両立へ果敢に挑む
ONtheに関わる人々、利用する会員様にスポットを当ててその人生に迫るインタビュー特集「穏坐な人々」。今回お話を伺ったのは、クリーンルーム商品を取り扱う会社の社長をされている、金馬亮仁さんです。これまで取り扱っている商品とは方向性が大きく異なる「バイオマスストロー」にかける熱い思いを、情熱的にお話しいただきました。
インタビュアー / 知院 ゆじ
- 株式会社リントレーコーポレーション 代表取締役社長 / 金馬 亮仁
- 大阪府吹田市出身。商社勤務を経て2007年に入社、代表取締役社長となる。クリーンルーム関連の用品・機器を専門で取り扱っていたが、最近バイオマスストロー分野へ新たに参入。クリーンルーム商品とSDGs商品の二本立てで事業を展開する。
1台数千万円から、1枚数銭の商売へ
「熱意にあふれる方だなぁ」
それが金馬さんの第一印象だ。インタビューを実施する際、事前に質問票を送るようにしている。目を通していただくだけでもありがたいのだが、なんと金馬さんは原稿用紙換算で10枚以上に渡る綿密な回答をしてくださったのだ!
金馬さんのあふれる熱意は、どのようにして培われたのだろう。
「大学卒業後は商社に入社しまして、エアコンや業務用ボイラー、産業用ロボットを取り扱っていました。『火を燃やして冷水を作る』といった、仕組みのよくわからないものを売っていましたね(笑)」
商社に約8年間務めたのち、父親が経営する現在の会社へ転職する。
「父は体力の限界を感じて引退を考えており、外部に事業承継しようと思っていたようです。ちょうどその頃、私は会社との折り合いが悪くなってきまして、働き続けるのが難しくなった。
父と私の利害とタイミングがうまく合ったので『じゃあ、引き継いでやってみようか』と」
扱う商材はこれまでとはまったく違う、クリーンルーム関連の商品。ニトリル・ラテックス・塩化ビニル製の使い捨て手袋や、眼鏡拭き(ワイピングクロス)・粘着マットなどが中心となる。
「まあなんとケチくさい商売なのかと(笑)。1台何百万円・何千万円の機械を売る世界から、1枚数円・数銭のものに変化したものですから、最初はカルチャーショックでしたね」
しかし、仕事を続ける中で徐々に意識が変化してきたそうだ。
「単価が安くても、懸命に販売し続けることで売上ができてくる。ロボットやボイラーは1台の販売金額は大きいですが、受注生産なので納期がかかるし、頻繁に売れるものではない。
クリーンルームの商品は、単価は小さいけれど得意先にとっては業務の必需品なので、売上が毎日継続する。トータルで考えれば、ロボットを販売するよりも大きな売上になっていて『これはバカにできる商売ではないな』と感じましたね。
実は、少額継続販売の方が資金繰りが楽なんです。何千万単位の仕入れや売上金回収のズレがあると、借り入れが必要となる可能性がありますので」
意識が変わり熱意を持って業務に取り組む中、世界経済に大きな波がやってくる。
「リーマンショックですね。社長を交代したあと、業績が急激に悪化しました。リーマンショックが原因と思いたいところですが、社長交代の影響がまったくなかったとも言い切れません」
業績が思うように回復しないからといって、手をこまねいているわけにはいかない。
「クリーンルーム関連の新商品を見つけて未開拓の業界に売り込むも、結果が出ずに撤退を繰り返す。社員が気持ちよく働ける環境作りのため、働き方改革を進めてみましたが、なかなか効果は現れない。
社員からは『何やってんねん』と白い目で見られ、完全になめられている状態でした」
たまたま入った飲食店で”ピン”とひらめく
業績回復と労働環境改善に尽力してきた金馬さん。懸命な取り組みとはうらはらに、空回りの状況が続く。
「先の見えない状況が続く中、たまたま入った飲食店でコーラを紙ストローで飲んだんです。そのとき『何これ!炭酸抜けまくりやん!おいしくないねんけど!』と残念な気持ちになったと同時に、ピンと来たんですね、ストローに」
ストローに?
「紙ストローを扱っていることで、SDGs(注1)を考えている店だなとは思いましたが、紙ストローで飲むコーラはおいしくない。『自分がイヤなモノはみんなイヤでしょ!』と、バイオマスストロー事業を始めることにしました」
紙ストローへの疑問から突然降ってわいた、バイオマスストロー事業への参入。これまでのクリーンルーム事業への凝り固まった考え方が、パンとはじけた瞬間である。
「以前よりSDGsに興味を持っていたのですが、我々にできることが見つけられずにいました。
さらに、今のクリーン事業で扱う商材は基本的に使い捨てなので、SDGsの流れとは逆行している。今後の社会情勢を考えると、クリーンルーム商品を売り続けるのは限界があると感じていたんです。
『会社が生き残るには何か新しい手を打たないと』と考えたときに、いろいろなアイデアが結びついてバイオマスストローにたどり着きました」
一見突拍子もない考えにも思うが、金馬さんの中では一本の太い線になっていたわけだ。
「ストロー事業で大阪府の『新事業テイクオフ補助金』を受けることができまして、現在飲食店・ホテル・レストラン向けにPRしているところです。ONtheUMEDAさんにも、この春からご採用いただくんですよ!」
(注1)SDGs:「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。詳しくは外務省のサイトまで。
周りの人を巻き込め!の精神
ところで、バイオマスストローとはいったいどのようなストローなのだろう?
「バイオマスストローは、サトウキビの絞りかすをベースに作っています。見た目や使い勝手は、プラスチックストローとほぼ変わりません。
実は、燃やした際に発生する二酸化炭素排出量も、両方であまり変わらないんです。
しかし、石油原料を燃やすと地下にある二酸化炭素を放出するため、大気中の二酸化炭素量が増える。サトウキビは成長過程で二酸化炭素を吸収して酸素を作っているので、燃やしても地球上の全体量が増えず、排出量と吸収量でプラマイゼロになる。
これがSDGsの考え方なんですね」
それなら『紙ストローではなくすべてバイオマスストロー、さらには生分解性の材質(注2)にすればいいのでは?』 と素人の私は考えるが、そう簡単にはいかない事情がある。
「SDGs商品が現状抱える問題は、コストがかなり高くなることなんです。
コスト負担が大きくなると『いくら良いものでも、値段が高いなら取り扱わないでおこう』となってしまうんですね。この現状を解消するために、市区町村、都道府県、国に補助金の創設をお願いしたいと考えています」
紙ストローの飲み心地の悪さから、補助金の創設までいくとは。金馬さんの発想力と情熱には恐れいる。
「『周りの人を巻き込め』『周りに言いまくれ』という考え方でやっています。周りからは『話がデカいな!』とよく言われますけど(笑)」
(注2)バイオマスプラスチックと生分解性については、詳しくは環境省のサイトをご確認ください。
新事業のきっかけは「ONtheUMEDA」のセミナーから
勉強するためのコワーキングスペースを探していて、ONtheを見つけたそうだ。
「実家に土地があり、不動産管理をする必要があったんです。私に知識がなければ、不動産屋に言われっぱなしでも反論できないと思って、宅建の勉強をしようと思いまして。自宅や社内では気が散るため、集中できるコワーキングスペースを探していました。
ONtheは、内装はきれいで椅子も机も上質。そして、私の好きなドリンクバーがある(笑)。今では週に2~3回利用しています」
金馬さんの知識欲は、宅建の勉強だけにはとどまらない。
「ロゴやデザインをデザイナーさんにお願いした際、PhotoshopやIllustratorを知らない人間が口出しすると、専門用語を理解できないので現場が混乱する。
それを防ぐため、ソフトを勉強してデザインにある程度は口出しできるようにしました。知識があると相手の言っていることがわかるので、口を出しても話がかみ合うんです」
最近では、勉強以外の使い方も積極的にしているそうだ。
「SNS・ホームページの更新や新事業・経営戦略を考える場所としても利用して、やる気や活力をもらっています。定期的にセミナーが開催されているのを知ってからは、興味のあるものは片っ端から徹底的に受けています」
SDGsに取り組もうとしたきっかけも、ONtheのセミナーからだそう。
「セミナーでは私が話す新事業に対して、講師や参加者からご指摘・ご指導くださいました。おかげで、セミナーからつながりが生まれて、講師の方とも仲良くさせていただいています。
自分の考え方一つで物事の流れが変わり、モヤモヤしていた状況から少しずつ光が見えて来たのも、ONtheがきっかけだと言えますね」
壮大なアイデアはますます膨らむ
さて、好奇心旺盛な金馬さんが今後考えている事業展開は、どのようなものなのだろう。
「現状の商売と並行して、バイオマス製品をもっと伸ばして事業を広げたい。現状は卸販売のみなのですが、ゆくゆくは自社製造を視野に入れています。
現状では、バイオマス製品の製造ができるメーカーを探しても、なかなか条件が合わない。それならばいっそ自分で作ってしまおうかと。クリーンルームで使う製品も、バイオマスなど環境に配慮した原材料で作れないか模索したいですね」
たしかに、製造まで手がければ金馬さんの理想とする商品ができるのは間違いない。
「ストローに関しても、理想を追求すれば100%バイオマス原料に持って行きたいんです。しかし、現実的にはできていない。お金をかければできると思うが、どのくらいになるのか想像できないので、識者にどんどん聞いてみようかと思っています」
金馬さんの脳内であふれるアイディアが、流れるようにどんどんと出てくる。
「『こんなものがあるので売ってみないか』『俺のところではこんな商品が作れるよ』みたいに、SDGs商品の拡大に協力していただける人がいれば、積極的に情報交換したいと考えています。
たとえば『吹田発・SDGs協議会』みたいな感じで、うまく協力してどんどん事業拡大できればという壮大な計画も頭にあります。話、デカいですか?(笑)」
金馬さんが話すと、壮大な話でも不思議とすべて実現できそうに思える。
「新事業の報告をしたときの社員の反応が『何やってんねん』から『おーっ』に変わってきました。社員も徐々にSDGsが気になりだしたようです。
従業員へ粘り強く説明を続けてきた今になって『みんなで新しい事にチャレンジしよう』と意識が変化してきました。従業員からも、ようやく社長として認められたような気がします」
これも、金馬さんの熱意が従業員に伝わった結果だろう。
「直近では、循環型モデルパーク内カフェへの資材供給を手がけたいと考えています。個人的には、外車が似合う内面を持つ人間になりたい。あと、旅行で五大陸制覇したいですね。自転車で琵琶湖や淡路島を一周したいですし、しまなみ海道も走りたいですね。あとは……」
金馬さんの熱意と好奇心は、まだまだ止まらない。
編集後記
社名の「リントレー」には、RINT(チリ)をTRAY(受け皿)ですべてすくい取るという意味があるそうです。なるほど、クリーンルームにチリは禁物。取れるものはすべて取らなければいけないのだな。
そんなことを取材後に考えていると、金馬さんから連絡が。
「スミマセン、『作業用手袋とSDGsでお困りの方は金馬まで』と、どこかに入れていただけませんか?」
チリだけではなく、顧客ニーズもすべてすくい取る。金馬さんの「人の役に立ちたい」という熱意と人柄が、そのメッセージからあふれていると感じました。お困りの方は、ぜひ声をかけてみては。きっと想像以上に助けていただけると思いますよ!
お問い合わせは「株式会社リントレーコーポレーション」まで!
(文:知院 ゆじ、写真:今井 剛)